「元々破綻しかけていた夫婦だから」は通用するか――150万円が認められた事案

「元々破綻しかけていた夫婦だから」は通用するか――150万円が認められた事案 不倫・慰謝料

「うちは不貞行為の前から、夫婦関係がぎくしゃくしていた」——不貞相手からそう反論されると、慰謝料請求自体が難しくなるのではないかと不安になる方は少なくありません。しかし、婚姻関係が既に円満さを欠いていたとしても、それだけで不貞相手の責任が失われるわけではありません。東京地方裁判所平成23年12月14日判決は、この点について参考になる判断を示しています。

事案の概要

この事案の原告(夫)は、妻Aと不貞関係を持った被告に対し、不法行為に基づく慰謝料等の支払いを求めました。原告とAの夫婦関係は、被告との不貞行為が始まる前から、必ずしも円満とはいえない状態にありました。Aは、かねてから原告との婚姻生活に不満を抱いており、原告が病気療養のため休職して以降、Aとは別居する形になっていました。そして、原告に対して離婚に向けた具体的な話合いを求めていた時期に、Aは被告と不貞関係に入ったという経過をたどっています。

争点

本件では、被告とAの不貞行為の存在自体に争いはなく、①この不貞行為が原告夫婦の婚姻関係破綻の原因といえるか、②慰謝料額をどの程度と評価すべきかが争点となりました。被告側は、原告とAの婚姻関係は不貞行為が始まる前から既に悪化しており、破綻の主な原因は自分の行為ではないと主張しました。

裁判所の判断

裁判所は、次のような事情を認定しました。

  • 原告とAの夫婦関係は、被告との不貞行為が始まる前から、円満さを欠く状態にあったこと
  • Aは、かねてから原告との婚姻生活に不満を持ち、原告が休職して療養に入って以降は別居生活となっていたこと
  • 原告がAに離婚に向けた具体的な話合いを求めていた時期に、Aと被告の不貞関係が始まったこと

これらの経過から、裁判所は、被告とAの不貞関係が、原告夫婦の婚姻関係破綻の「きっかけをつくった」とまでは言えないと判断しました。もっとも、既に円満さを欠いていた原告夫婦の関係を、実際に破綻にまで至らしめたことについては、この不貞関係が少なからず影響を与えたことも認めています。そのうえで、婚姻期間や当事者の年齢、未成熟の子の存在、その後の被告とAの関係など、事案に現れた諸般の事情を総合的に考慮し、慰謝料額を150万円とするのが相当であると判断しました。

※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。

実務上の意味・ここがポイント

この判決から分かるのは、「不貞行為より前から夫婦関係が悪化していた」という事情は、不貞相手の責任を軽くする方向に働くことはあっても、それだけで責任がゼロになるわけではないということです。裁判所は、不貞行為が破綻の「引き金」だったとまではいえない場合でも、既に脆くなっていた夫婦関係を現実に壊れた状態に至らしめたことについては、なお不貞相手の関与を認める、という段階的な評価をしています。

不貞相手への請求の場面では、「もともと夫婦仲は良くなかったのだから、自分のせいではない」という反論が頻繁に出されます。この判決は、そうした反論が通ったとしても、慰謝料請求そのものが否定されるとは限らず、金額を左右する一事情にとどまる場合があることを示す実例といえます。請求する側としては、破綻の主因が不貞行為でなかったとしても、諦めずに他の事情(婚姻期間、子の有無など)を含めて総合的に主張していくことが重要になります。

もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。夫婦関係が悪化していた程度や時期、離婚協議の進み具合などによっては、不貞相手の責任がより大きく減じられる、あるいは逆に認められないと判断される事案もあり得ます。同じような経緯の事案であっても、必ずこの判決と同じ結論になるとは限りません。

よくある質問

Q 夫婦関係が不貞行為の前から既に悪化していた場合、不貞相手に慰謝料請求はできませんか。

A 不貞行為が破綻の直接のきっかけとまでは言えない場合でも、婚姻関係が現実に破綻するに至ったことへの影響が認められれば、慰謝料請求が認められる余地があります。本件はその一例です。

Q 「配偶者から離婚を切り出されていた時期の不貞だから、責任は軽いはずだ」という反論は通りますか。

A 金額を減じる事情として考慮されることはありますが、それだけで請求自体が否定されるわけではありません。婚姻期間や未成熟子の有無など、他の事情と併せて総合的に判断されます。

Q 夫婦関係が破綻していたかどうかは、どのように判断されるのですか。

A 別居の有無や期間、離婚に向けた話合いの有無や進み具合、当時の夫婦間のやり取りなど、具体的な事実関係から総合的に判断されます。

「もともと夫婦仲が良くなかった」と反論されてお困りの方へ

不貞相手側から、婚姻関係が既に悪化していたことを理由に責任を否定する反論を受けることは少なくありません。婚姻生活の実情や、不貞行為が始まった時期の経緯を伺ったうえで、請求できる金額の見通しや、反論への対応方針を整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)