妻の年収が夫より高くても、養育費はもらえる?

妻の年収が夫より高くても、養育費はもらえる 婚姻費用・養育費

「妻の方が年収は高いのだから、夫からお金はもらえないですよね」——親権者となる側の年収が相手より高いケースで、そう思い込んでいる方は少なくありません。結論から言うと、婚姻費用(別居中の生活費)と養育費(子の養育費用)とでは、答えが変わります。さらに婚姻費用は、子どもがいるかどうかでも結論が変わります。順番に見ていきましょう。

まず用語を確認:「基礎収入」「生活費指数」とは

計算の前に、2つの言葉だけ押さえてください。基礎収入とは、年収から税金や仕事に必要な経費などを差し引いた、実際に生活費に回せる金額のことです。年収そのものではなく、年収に応じて決まった割合(目安として年収300万円台なら42%、600万円台なら41%というように、年収が上がるほど割合は下がっていきます)を掛けて算出します。生活費指数とは、家族それぞれに生活費をどれだけ配分するかを表す数字で、大人1人を100とし、子どもは年齢に応じて指数が決まっています(目安として14歳までの子は62、15歳以上の子は85)。

婚姻費用の場合①:収入の高い方が払う側になる

婚姻費用は、別居中でも夫婦の生活水準を同居していたときと同じくらいにそろえるための制度です。まず夫婦それぞれの基礎収入を計算し、2人分を合計します。その合計額を、生活費を渡す側ともらう側、双方の世帯の生活費指数の比率で振り分けます。もらう側の世帯に割り振られた金額から、もらう側自身の基礎収入を差し引いた残りが、渡す側が実際に負担する金額になります。

実務では簡易的に「算定表」という早見表を使い、双方の年収を当てはめるだけで金額の目安を確認することが多いのですが、厳密に計算すると、以下のような計算式になります。

もらう側の世帯に割り振られる金額 =(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×もらう側の生活費指数の合計÷双方の生活費指数の合計

渡す側の負担額 = もらう側の世帯に割り振られる金額-もらう側自身の基礎収入

具体例(子どもなし)として、夫婦とも給与所得者(会社員)で、夫の年収400万円、妻の年収600万円、子どもがいない場合を考えます。夫の基礎収入は400万円の42%で168万円、妻の基礎収入は600万円の41%で246万円です。子どもがいないので、生活費指数の合計は夫100、妻100の合計200になります。妻に割り振られる生活費は、(168万円+246万円)に100÷200を掛けて207万円です。この207万円から妻自身の基礎収入246万円を差し引くと、差額は-39万円になります。

マイナスになったからといって、「夫から妻への支払いがゼロになる」という話ではありません。妻自身の基礎収入(246万円)は、本来割り振られるべき生活費(207万円)をすでに39万円分上回っています。つまり、これは逆に、収入の少ない夫の方から妻に対して生活費を請求できる状況にあるということです。すなわち、夫が婚姻費用を請求すれば、妻が夫に約39万円(年額。月額にして約3万2500円)を支払う義務を負うことになります。婚姻費用は、年収が高い方から低い方へ流れる仕組みなので、最終的に婚姻費用を支払う義務を負うのは、あくまで年収の高い方です。

婚姻費用の場合②:子どもがいると、負担する側が変わることがある

ところが、子どもが妻と同居している場合は、振り分けの計算に子の生活費指数も加わります。つまり、妻本人の生活費だけでなく、子の生活費も含めて振り分けの計算をすることになるのです。

具体例として、先ほどと同じ夫の年収400万円・妻の年収600万円で、14歳の子1人が妻と同居している場合を考えます。夫の基礎収入168万円、妻の基礎収入246万円はここまでと変わりません。生活費指数の合計は、夫100、妻100、子62を足した262になります。妻の世帯(妻と子)の生活費指数の合計は、100と62を足した162です。妻の世帯に割り振られる生活費は、(168万円+246万円)に162÷262を掛けて、約256万円になります。ここから妻自身の基礎収入246万円を差し引くと、約10万円(年額)が残ります。これが夫の支払う婚姻費用で、月額にすると約8,300円です。

子どもがいることで、妻の世帯に割り振られるべき金額が大きくなり、妻自身の基礎収入だけでは足りない分(実質的には子の生活費相当分)を、今度は夫が負担する結果になりました。子どもの有無によって、誰が払う側になるかが逆転し得るということです。

養育費の場合:もらえるのが原則。ただし計算式に「上限」がある

養育費は、婚姻費用のような夫婦間の生活水準の均衡ではなく、子の生活費を父母それぞれの収入に応じて負担させる制度です。そのため、権利者(子を監護する側)の年収が義務者より高くても、養育費自体は原則として発生します。

ただし、計算の途中で1つ特別なルールがあります。権利者の年収が義務者より高い場合、権利者の年収は義務者と同額とみなして計算するというルールです。

計算の考え方は、婚姻費用とは少し異なります。まず義務者の基礎収入を、義務者と子の生活費指数の比率で振り分け、子にかかる生活費を割り出します。次に、その金額を、義務者と権利者、双方の基礎収入の大きさに応じて分け合います。このうち義務者が負担する部分が、実際に支払う養育費の額になります。

これも実務では算定表で金額の目安を確認することがほとんどですが、厳密に計算すると、以下のような計算式になります。

子にかかる生活費 = 義務者の基礎収入×子の生活費指数の合計÷(義務者の生活費指数100+子の生活費指数の合計)

義務者が支払う養育費 = 子にかかる生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

具体例として、夫婦とも給与所得者(会社員)で、夫(義務者)の年収300万円、妻(権利者)の年収400万円、14歳までの子2人がいる場合を考えます。夫の基礎収入は300万円の42%で126万円です。妻の基礎収入は本来400万円の42%で168万円ですが、夫と同額とみなすため126万円として計算します。子2人分の生活費指数の合計は62と62を足した124です。子にかかる生活費は、126万円に124÷(100+124)を掛けて、約69万8000円になります。夫が支払う養育費は、この69万8000円に126万円÷(126万円+126万円)を掛けて、約34万9000円(年額)、月額にすると約2万9000円です。

なぜ権利者の年収に上限を設けるのでしょうか。かつては、子が権利者のもとで生活した場合と義務者のもとで生活した場合、それぞれの生活費を比較し、高い方を子に必要な生活費とする考え方(生活保持義務を重視した考え方)が採られていたことがありました。この方法では、権利者の年収が上がるほど子に必要とされる生活費も大きくなり、その結果、義務者の負担額が際限なく膨らんでしまうという問題が指摘されていました。そこで、現在の算定方式では、権利者の年収が義務者の年収を上回る部分は計算に反映させず、義務者と同額とみなして計算するという形に改められています。

実務上の意味・ここがポイント

ここまでの内容を整理すると、伝えたいことはシンプルです。①婚姻費用は生活水準の均衡を図る制度なので、子どもがいない場合を想定すると、収入の高い方が低い方に払う側になります。②子どもが同居している側がいる場合は、計算に子の生活費指数が加わるため、年収の高低にかかわらず、負担する側が変わり得ます。③養育費は子の生活費を分担させる制度なので、権利者の年収が義務者より高くても、原則として発生します。④養育費の計算では、権利者の年収が義務者の年収よりも高い場合には、権利者の年収は義務者と同額として扱われるため、権利者の年収が高いほど義務者の負担額が際限なく増えるわけではありません。

よくある質問

Q 私(妻)の年収は夫より高いですが、子どもがいます。婚姻費用はもらえますか。

A 子どもがいない場合と異なり、もらえる可能性があります。婚姻費用の計算では、子どもと同居している側の世帯に割り振られる生活費に子の生活費指数も加わるため、妻自身の年収が高くても、その世帯に割り振られる金額の方が上回れば、夫が差額を負担することになります。

Q 子どもがいる場合、婚姻費用と養育費、両方もらえるのですか。

A 別居中で離婚が成立していない間は、婚姻費用として、夫婦の生活費と子の生活費をまとめて1つの金額で請求するのが基本です。離婚が成立した後は、婚姻費用ではなく養育費として、子の生活費のみを請求する形になります。つまり、婚姻費用は離婚前、養育費は離婚後に請求するものであり、同じ期間について、婚姻費用に含まれる子の生活費と養育費を重複して請求することはできません。

婚姻費用・養育費についてご不安がある方へ

双方の年収や子の年齢・人数などを伺ったうえで、婚姻費用・養育費がどの程度になりそうか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際の金額は、収入の種類(給与所得か事業所得か)や子の年齢構成など、個別の事情によって異なります。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)