財産分与で不動産をもらうと、登記簿から今の住所が相手に知られてしまいますか?

財産分与で不動産をもらうと、登記簿から今の住所が相手に知られてしまいますか DV・モラハラ

DV・モラハラが理由で離婚し、相手と距離を置くために転居した——そんな方が、財産分与で自宅や新居の名義を自分に移そうとしたときに、ふと不安になることがあります。「不動産の名義を変えると、登記簿に今の住所が載ってしまうのではないか」という不安です。結論から言うと、以前はこの不安が現実の問題でしたが、現在は一定の手当てが制度として用意されています。

なぜ財産分与で不動産を取得すると、住所を知られる心配が出てくるのか

不動産の名義を変更する登記をすると、登記簿には新しい所有者の氏名と住所が記録されます。この登記簿は、法務局に申請すれば誰でも登記事項証明書として取得できる公開情報です。通常の離婚であれば、名義変更後の住所が元配偶者に知られても大きな問題にはなりません。しかし、DV・モラハラが原因の離婚では事情が異なります。加害者側に現在の住所を知られることは、被害者の安全に直結する問題です。財産分与によって不動産の名義を自分に移した結果、かえって今の住所が加害者に把握されてしまっては、離婚して距離を置いた意味が失われかねません。

登記簿の住所を「公示用住所」に置き換えてもらう制度がある

この問題に対応するため、不動産登記法には、本来の住所に代えて別の住所(公示用住所)を登記事項証明書等に記載させることができる制度が設けられています(不動産登記法119条6項)。ただし、これはDV・モラハラを理由に離婚したというだけで当然に使えるものではありません。住所が明らかになることによって生命・身体に危害を受けるおそれがあるなど、法律上の要件を満たす場合に、申出に基づいて認められる措置です。公示用住所とは、代理人や支援団体など、登記記録に記録されている本人と実際に連絡を取ることができる人の住所のことです(たとえば、司法書士事務所の住所を公示用住所とする例が通達上も示されています)。この措置が認められると、登記事項証明書等には本人の住所に代えて公示用住所が表示されます。これにより、財産分与で不動産の名義を取得した場合でも、登記簿を通じて加害者に現住所を突き止められるリスクを抑えることができます。

実務上の意味・ここがポイント

①財産分与で不動産の名義を取得すると、登記簿に新しい住所が記載され、第三者である加害者側にも登記事項証明書を通じて知られる可能性があります。

②不動産登記法上の制度を利用すれば、本来の住所の代わりに公示用住所を登記事項証明書等に記載してもらうことができますが、これは住所が明らかになることで生命・身体に危害を受けるおそれがあるなど、法律上の要件を満たす場合に申出によって認められるものです。

③財産分与で不動産を取得する予定がある場合は、名義変更の手続きを進める前に、この制度を利用できるかどうかを確認しておくことをお勧めします。

よくある質問

Q すでに不動産の名義変更の登記を済ませてしまいました。今から住所の表示を変えてもらうことはできますか。

A 登記が完了した後であっても、申出によって住所の表示に関する措置を受けられる場合があります。まずは管轄の法務局にご相談いただくことをお勧めします。

Q 公示用住所には、誰の住所でも指定できるのですか。

A 公示用住所は、登記記録に記録されている本人と実際に連絡を取ることができる人の住所であることが前提とされています。手続きを依頼している司法書士の事務所の住所を利用する例が通達でも示されていますので、依頼している専門家がいる場合は、その住所を利用できないか確認するとよいでしょう。

Q この制度を利用すれば、相手に現在の住所を知られることは一切なくなりますか。

A この制度は、登記事項証明書等に本人の住所に代えて公示用住所を表示することで、登記情報から現在の住所を知られることを防ぐための制度です。ただし、他の経路から住所を知られる可能性までなくなるわけではありません。あわせて、裁判所の手続きにおける住所の秘匿など、他の保護制度の利用もご検討ください。

Q 財産分与で不動産を取得する予定ですが、いつの段階で相談すればよいですか。

A 名義変更の登記を申請する前の段階でご相談いただくのが望ましいです。あらかじめ手当てをしておくことで、登記が完了した後に住所が公開されてしまう事態を避けやすくなります。

DV・モラハラを理由とする離婚の手続きについてご不安がある方へ

財産分与で不動産の名義を取得する予定がある場合、登記上の住所の取扱いについてどのような手当てができるか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際に利用できる制度や手続きは、個別の事情によって異なります。具体的な対応については弁護士や管轄の法務局にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)