DV・モラハラを理由に離婚を考えている方から、「調停のために裁判所に行くこと自体が怖い」というご相談を受けることがあります。話し合いの内容そのものより、待合室や廊下で相手と顔を合わせてしまうのではないか、裁判所の外で待ち伏せされるのではないか、という不安です。この不安は、決して大げさなものではありません。実際に、裁判所の構内で深刻な事態に至ってしまった事例もあります。今回は、調停における鉢合わせ・待ち伏せのリスクと、実務上とられている対策を整理します。
なぜ離婚調停では、相手と鉢合わせするリスクがあるのか
離婚の話し合いがまとまらない場合、多くのケースでは、いきなり訴訟を起こすのではなく、まず家庭裁判所の調停を申し立てることになります(調停前置主義)。対面で調停を行う場合には、当事者双方が同じ裁判所に出向くことがあり、呼出しの時間帯や待合室の運用によっては、当事者同士が顔を合わせてしまう場面が生じ得ます。DV・モラハラの被害者にとっては、この「相手と同じ建物にいる」という状況自体が、大きな恐怖やストレスになります。なお、DV等の事情があり、調停を行うこと自体が相当でないと裁判所が判断する場合には、例外的に調停を経ずに離婚訴訟を提起できることがあります。保護命令が発令されていることは、その判断において考慮され得る事情の一つですが、保護命令が出ていれば当然に調停を経なくてよくなる、というものではありません。
実際に起きてしまった深刻な事態
このリスクは、決して抽象的なものではありません。2019年には、東京家庭裁判所の構内で、離婚調停のために来庁していた女性が、調停の相手方であった夫に殺害されるという事件が起きています。この事件の刑事裁判は東京地方裁判所で審理されました。裁判所という、本来であれば安全であるはずの場所で、調停の当事者同士が深刻な事態に至ってしまったという事実は、調停における鉢合わせ対策がいかに重要かを物語っています。
鉢合わせを防ぐ工夫①:できる限りWEB形式の調停を選ぶ
実務上、最も有効な対策の一つが、WEB会議システムを利用した調停の活用です。WEB会議を利用できる期日であれば、自宅や代理人弁護士の事務所等から参加できる場合があり、裁判所で相手方と鉢合わせするリスクを大きく減らせます。WEB会議を利用できるかどうかや、その方法は、裁判所や事案、期日の内容によって異なりますが、DV・モラハラが背景にある事件では、WEB形式を希望する旨を早めに申し出ておくことをお勧めします。
鉢合わせを防ぐ工夫②:呼出時間や待合室について裁判所に配慮を求める
WEB形式での対応が難しい場合は、対面での出頭時にできる限り当事者同士が顔を合わせないよう、裁判所に配慮を求めることができます。具体的には、当事者双方の呼出時間を意図的にずらしてもらったり、通常使う待合室とは別の待合室にしてもらったりする運用です。こうした配慮は、裁判所に何も伝えなければ自動的に行われるものではないため、DV・モラハラの事情がある場合は、調停の申立段階や進行中に、上申書等の形であらかじめ裁判所へ伝えておくことが重要です。
鉢合わせを防ぐ工夫③:弁護士が同行し、待ち合わせ場所を工夫する
裁判所側の配慮があっても、加害者側が呼出時間や待合室の運用を把握したうえで、被害者が来そうな時間帯に玄関や待合室の前で待ち伏せをしていたり、尾行を試みたりするケースも実際にあります。そのため、弁護士が代理人としてついている場合は、裁判所の最寄り駅や弁護士会館など、裁判所の外で待ち合わせをしたうえで、一緒に裁判所へ向かうといった工夫をすることがあります。一人で裁判所に向かうことに不安がある場合は、こうした同行についても弁護士に相談してみてください。
実務上の意味・ここがポイント
①離婚調停は、対面で行う場合には当事者双方が同じ裁判所に出向くことがあるため、DV・モラハラの被害者にとっては、相手との鉢合わせや待ち伏せが現実的なリスクになります。
②このリスクは軽視できるものではなく、実際に裁判所の構内で深刻な事態に至った事例もあります。
③WEB形式の調停の活用、呼出時間や待合室についての裁判所への申出、弁護士による同行といった工夫を組み合わせることで、リスクを下げることができます。
④こうした配慮は、黙っていても自動的に行われるものではないため、DV・モラハラの事情があることは、早い段階で裁判所や弁護士に伝えておくことが大切です。
よくある質問
Q 調停を申し立てる前から、鉢合わせへの不安について裁判所に伝えることはできますか。
A 調停の申立書やその後の上申書などを通じて、早い段階でDV・モラハラの事情や鉢合わせへの不安を伝えておくことができます。早めに伝えておくことで、呼出時間や待合室の調整など、具体的な配慮を受けやすくなります。
Q 保護命令が出ていれば、調停を経ずに訴訟を起こせるのですか。
A 保護命令が出ているからといって、当然に調停前置が不要になるわけではありません。DV等の事情から、調停に付することが相当でないと認められる場合には、例外的に調停を経ずに訴訟を提起できることがあります。
Q 裁判所への行き帰りが特に不安です。弁護士に同行してもらうことはできますか。
A 弁護士が代理人としてついている場合、裁判所の最寄り駅や弁護士会館などで待ち合わせをしたうえで、一緒に裁判所へ向かうという対応をとることがあります。行き帰りに強い不安がある場合は、遠慮なく弁護士にご相談ください。
DV・モラハラを理由とする離婚の手続きについてご不安がある方へ
調停や裁判所への出頭に不安がある場合、WEB形式の利用や呼出時間の調整など、どのような対策がとれるか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。裁判所の運用は事案や裁判所によって異なる場合があります。具体的な対応については弁護士にご相談ください。
