「長年、夫婦の性生活がありません。これだけを理由に離婚できるのでしょうか」――こうしたご相談は、決して珍しいものではありません。結論から言うと、性生活がないという事実だけで当然に離婚が認められるわけではありませんが、その原因や経緯によっては、法律上の離婚原因として考慮されることがあります。今回は、セックスレス・性交拒否・性交不能が離婚とどう関わるかを整理します。
離婚原因としての「婚姻を継続し難い重大な事由」
裁判離婚が認められるには、民法が定める離婚原因のいずれかに該当する必要があります。性生活をめぐる問題の多くは、不貞行為や悪意の遺棄といった個別の離婚原因ではなく、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項4号)に当たるかどうかという形で問題になります。この規定は、夫婦関係が社会通念上修復不可能な状態に至っているかどうかを総合的に判断するもので、性生活の有無や、それに至った経緯も、考慮される事情の一つです。
結婚前から性交渉ができないことを告げずに結婚した場合
性交渉ができない事情を結婚前から認識していながら、それを相手に告げずに結婚したケースについては、離婚原因として認めた裁判例があります(京都地判昭和62年5月12日判時1259号92頁)。この裁判例は、婚姻後長年にわたり性交渉がない状態について、原則として婚姻を継続し難い重大な事由に該当するとしたうえで、結婚前に事情を告げなかったことについて、信義則に照らし不法行為を構成するとも評価しています。結婚前から分かっていた事情を伝えずに結婚したという経緯があるかどうかは、この種のケースで重視されるポイントの一つといえます。
特段の理由のない性交拒否について
裁判例上、夫婦の性生活は婚姻関係における重要な事項とされており、特段の理由なく一方的に性交渉を拒み続けることは、婚姻関係の破綻を基礎づける事情の一つとなり得ます。最高裁昭和37年2月6日判決(民集16巻2号206頁)が、夫婦の性生活は婚姻の基本となるべき重要な事項であるとの考え方を示していることも、こうした理解の根拠の一つとされています。もっとも、この判決自体は性交渉そのものが困難であった事案に関するものであり、単なる「性交渉の少なさ」が直ちに重大な事由と評価されるわけではない点には注意が必要です。病気や体調、心理的な事情など、性交渉が難しい理由が正当と認められる場合には、評価が異なってきます。
夫婦関係全体の破綻状況とあわせて判断される
性交渉がないこと自体は、夫婦関係の一側面にすぎず、それだけを切り離して評価するのではなく、別居期間の長さや夫婦関係全体の状況とあわせて、婚姻関係が修復困難な状態にあるかどうかが判断されることになります。性生活がないことが直ちに離婚原因になるとは限らず、それに至った背景事情や、夫婦関係全体がどの程度破綻しているかが、総合的に考慮されることになります。
実務上の意味・ここがポイント
①性生活がないという事実だけで、当然に離婚が認められるわけではありません。
②結婚前から性交渉ができない事情を認識していながら、それを相手に告げずに結婚した場合は、離婚原因として考慮される可能性が高まります。
③特段の理由のない一方的な性交拒否についても、離婚原因となり得るとする考え方がありますが、病気や心理的な事情など正当な理由がある場合は評価が異なります。
④いずれの場合も、性生活の問題単独で判断されるのではなく、別居期間や夫婦関係全体の状況とあわせて、婚姻を継続し難い重大な事由に当たるかどうかが総合的に判断されます。
よくある質問
Q セックスレスであることだけを理由に、離婚調停を申し立てることはできますか。
A 申立て自体は可能ですが、セックスレスという事実だけで調停や裁判で離婚が認められるとは限りません。性生活がない経緯や期間、夫婦関係全体の状況を具体的に整理しておくことが重要です。
Q 体調不良や病気が原因で性交渉ができない場合も、離婚原因になりますか。
A 病気や体調など正当な理由がある場合は、特段の理由のない拒否とは異なる評価がされる可能性があります。もっとも、結婚前からその事情を認識していながら相手に伝えていなかった場合は、別途考慮される事情になり得ます。
Q 逆に、性交渉を拒まれ続けていることを理由に、慰謝料請求はできますか。
A 事案の内容によっては、慰謝料請求が認められる可能性もあります。拒否に至った経緯や期間、理由の有無などを具体的に伺ったうえで、見通しを整理いたします。
性生活の問題で離婚をお考えの方へ
性生活に関するお悩みは、他人には相談しづらく、一人で抱え込んでしまいがちです。経緯や背景事情を伺ったうえで、離婚原因として考慮され得るかどうかを整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

