請求額250万円が50万円に――複数の減額事情が重なった事案

請求額250万円が50万円に――複数の減額事情が重なった事案 不倫・慰謝料

「不貞は発覚したが、その後夫婦関係は元通りになった」——このような事情は、不貞相手への請求にどう影響するのでしょうか。東京地方裁判所平成20年10月3日判決は、婚姻関係の修復を含む複数の事情が重なり、慰謝料額が大きく減額された事案として参考になります。

事案の概要

この事案の原告X(妻)の夫Aは、被告Y(女性)と不貞関係を持ちました。AとYは、いずれも互いに相手に配偶者がいることを認識していた、いわゆる「ダブル不倫」の関係にありました。不貞行為が始まった時点で、XとAの婚姻期間はまだ約2年半程度で、夫婦の間には2人の未成熟な子がいました。AとYの関係は約2年間続き、肉体関係を持った回数は合計3回、遅くとも一定の時期には関係を解消していました。原告Xは、この不貞行為によって精神的苦痛を受けたとして、Yに対し250万円の損害賠償を求めました。

争点

本件では、不貞行為の存在自体に争いはなく、慰謝料額をどの程度と評価すべきかが争点となりました。とりわけ、①不貞関係の期間や回数をどう評価するか、②不貞行為の発覚後にXとAの夫婦関係がどのように推移したか、③これらを踏まえてXが被った精神的苦痛をどう金額に反映すべきかが問題になりました。

裁判所の判断

裁判所は、増額方向の事情として、次の点を指摘しました。

  • AとYの交際が約2年にわたって続いたこと
  • XとAとの間に2人の未成熟な子がいること
  • Xが、不貞行為の発覚をきっかけに心身の不調をきたし、通院を要するに至ったこと

他方で、減額方向の事情として、次の点も指摘しています。

  • XとAの婚姻期間が、不貞行為が始まった時点でまだ約2年半程度と、比較的短かったこと
  • AとYが肉体関係を持った回数は、合計3回にとどまること
  • AとYの交際は、比較的早い時期に終わっていたこと
  • Aが不貞の事実を認めてXに謝罪し、本件訴訟でもXに協力して証言するなど、訴訟の時点でXとAの婚姻関係が相当程度修復されていたこと

これらの事情を総合的に考慮し、裁判所は、Yが負うべき慰謝料額を50万円と判断しました。250万円という請求額からすれば、大幅な減額です。

※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。

実務上の意味・ここがポイント

この判決で50万円という金額に至った要因は、一つではありません。①婚姻期間がまだ約2年半程度と短かったこと、②肉体関係を持った回数が合計3回にとどまること、③交際が比較的早期に終了していたこと、④不貞発覚後に婚姻関係が相当程度修復されていたこと、という複数の減額事情が並んでおり、裁判所はこれらを総合的に考慮した結果として、50万円という金額を導いています。特定の一つの事情だけが結論を決定づけたわけではない、という点に注意が必要です。

そのうえで、この判決が示す視点として注目したいのは、不貞行為の発覚後に婚姻関係が修復されたという事情も、他の事情と並んで、不貞相手にとって有利な減額要素になり得るということです。婚姻関係の修復は、当事者(原告と配偶者)自身の努力によって生まれるものであり、不貞相手が直接コントロールできるものではありませんが、結果的にその利益を受けられる形になっています。

もっとも、この判決で重要なのは、単に「今は円満に見える」という状態ではなく、配偶者A自身が不貞の事実を認めて謝罪し、訴訟の中でも原告に協力して証言するといった、修復の実質を裏付ける具体的な行動が伴っていた点です。修復を主張する側としては、こうした裏付けとなる事実を具体的に示せるかどうかが重要になります。

また、この事案が「ダブル不倫」であったこと、すなわちYもAに配偶者がいることを知っていたという事情自体は、Yの責任を軽くする方向には働いていません。互いに既婚者であると知りながら関係を持ったことは、通常の不貞行為と同様に評価されています。

もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。関係の期間・回数、婚姻関係の修復の程度やそれを裏付ける具体的な行動などによって、結論は変わり得ます。夫婦関係が円満に見えることや、関係の回数が少ないことが、常にこの判決と同じ程度の減額につながるとは限りません。

よくある質問

Q 不貞発覚後に夫婦関係が修復された場合、不貞相手への慰謝料請求はできなくなりますか。

A 請求自体ができなくなるわけではありません。もっとも、本件のように婚姻関係が相当程度修復されたと評価される場合には、慰謝料額が抑えられる方向に働くことがあります。

Q 「相手も既婚者だと知っていたのだから、お互い様では」という考え方は、慰謝料に影響しますか。

A 双方が互いに配偶者のあることを知っていたという事情(いわゆるダブル不倫)自体は、通常、請求する側の慰謝料請求を妨げる事情にはなりません。

配偶者との関係を続けながら、不貞相手への請求を検討されている方へ

夫婦関係を続けながら不貞相手にも責任を取ってもらいたい、というご相談は少なくありません。婚姻関係の現在の状況や、配偶者の対応を伺ったうえで、請求できる金額の見通しを整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)