不貞相手として訴えられた側が、「自分は誘惑されて、いわば美人局のような形に巻き込まれた被害者なのだ」と反論することがあります。責任を軽くしようとする主張ですが、裏付けを欠いたまま展開すると、かえって逆効果になることがあります。東京地方裁判所平成22年9月6日判決は、この点がよく分かる事案です。
事案の概要
この事案の原告X(夫)と妻Aの婚姻関係は、約5年間、特段の問題もなく続いていました。ところが被告Y(男性)は、Aが既婚者であると知りながら、約1か月弱という短い期間に、3回にわたって不貞関係を持ちました。この不貞行為がXに発覚した後、XとAは離婚には至らなかったものの、日常的な会話がほとんどなくなり、一緒に行動することもなくなるなど、夫婦関係は悪化しました。Xは、Yに対し300万円の損害賠償を求めました。
争点
本件では、不貞行為の存在自体に争いはなく、①不貞関係が始まった経緯、とりわけどちらが積極的であったか、②被告Yが訴訟の中で行った主張の当否、③これらを踏まえた慰謝料額が争点となりました。Yは、Aが終始誘惑的な態度を取っており、自分はいわば計画的に誘い込まれた被害者であるという趣旨の主張をし、自らの責任は軽いはずだと反論しました。
裁判所の判断
裁判所は、次のような事情を認定しました。
- Yは、不貞関係を持つ前から、Aが既婚者であることを認識していたこと
- Yは、Aの側が終始誘惑的・主導的であったと主張したが、実際にはY自身も積極的な対応をしていたと認められ、この主張はそのまま採用できないこと
- 不貞行為の発覚後、XとAは離婚こそしていないものの、日常的な会話がほとんどなくなるなど、夫婦関係が悪化していること
- Yが訴訟の中で、自らを一方的に誘い込まれた被害者であるかのように主張したこと自体が、原告Xの精神的苦痛をさらに増大させるものと認められること
- 他方で、不貞行為自体は比較的短期間で終息していること
これらの事情を総合的に考慮し、裁判所は、Yが負うべき慰謝料額を100万円と判断しました。300万円という請求額からは減額されていますが、Yの反論がなければ、より低い金額にとどまっていた可能性もうかがわれる内容です。
※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。
実務上の意味・ここがポイント
不貞相手として訴えられた側が、自分の責任を軽くしようとして、相手方配偶者を一方的な「誘惑者」であるかのように位置づける主張をすることは、実務上珍しくありません。しかし、この判決が示すとおり、そうした主張が具体的な裏付けを欠いたまま展開された場合、単に認められないだけでなく、その主張自体が請求者本人を更に傷つけるものとして、逆に慰謝料の増額事由として扱われることがあります。
特に本件のように、相手方配偶者を蔑むような響きを持つ主張が、根拠に乏しいまま法廷で展開された場合には、請求者本人の心情を逆なでする結果になりやすく、裁判所もそうした訴訟活動自体を、精神的苦痛を評価する一事情として取り込むことがあります。不貞相手側の代理人としては、責任転嫁的な主張を安易に展開することにはリスクが伴うことを踏まえておく必要があります。
逆に、請求する側の視点に立てば、相手方が訴訟の中でどのような主張・態度を取ってくるかも、最終的な慰謝料額に影響し得るということです。相手方の対応次第では、当初の請求額の見通しが変わってくることもあり得ます。
もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。同じように根拠の乏しい反論がされた場合でも、その具体的な内容や、証拠関係、他の事情との兼ね合いによって、評価は変わり得ます。反論の内容が常にこの判決と同じ程度の増額につながるとは限りません。
よくある質問
Q 不貞相手が「自分は誘惑されただけだ」と主張してきた場合、慰謝料は減額されますか。
A そのような主張が証拠によって裏付けられれば、減額事由として考慮されることはあります。もっとも、本件のように、裏付けを欠いたまま一方的な主張がされた場合には、かえって増額事由として扱われることがあります。
Q 「美人局にはめられた」という主張自体に、何か法的な効果はあるのですか。
A そのような主張自体が独立した法的な抗弁になるわけではありません。本件でも、事実として認められなかったばかりか、原告本人の精神的苦痛を増大させる事情として、慰謝料の算定に影響しました。
Q 訴訟の中での相手方の言い分は、慰謝料額にどこまで影響するのですか。
A 本件のように、訴訟活動における相手方の主張や態度(根拠のない主張や、請求者を一方的に貶めるような主張など)が、請求者本人の精神的苦痛を増大させる事情として考慮されることがあります。
不貞相手から一方的な主張をされてお困りの方へ
不貞相手側から、事実と異なる一方的な主張をされ、精神的につらい思いをされている方は少なくありません。相手方の主張の内容や、それを裏付ける証拠の有無を伺ったうえで、対応方針や請求額の見通しを整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

