「不貞相手から誘われただけなのに、自分の方が悪者にされてしまうのか」——不貞相手の立場からすれば、そう感じることもあるかもしれません。しかし、実際に不貞関係を持った以上、責任を免れられるわけではありません。それでも、関係が始まった経緯によっては、慰謝料額が大きく減額されることがあります。東京地方裁判所平成15年11月26日判決は、この点がよく分かる事案です。
事案の概要
この事案の原告X(夫)と妻Aは、婚姻して7年ほどが経過しており、子はいませんでした。Aは、被告Y(男性)に積極的に接近し、平成10年4月頃から平成11年5月頃までの約1年1か月間にわたり、複数回の不貞関係を持ちました。原告Xは、妻Aに対しては責任を追及せず、不貞相手であるYのみを被告として、1000万円の損害賠償を求めました。
争点
本件では、Yによる不貞行為の存在自体に争いはなく、①不貞関係が始まった経緯や、Yの関与の程度をどう評価すべきか、②XとAの婚姻関係がこの不貞行為によってどの程度の影響を受けたといえるか、③YからA宛てに送られていた手紙等のやり取りが、X本人に対する別個の不法行為を構成するか、が問題になりました。
裁判所の判断
裁判所は、次のような事情を認定しました。
- 不貞関係が始まったきっかけは、Aの側からの積極的な働きかけによるものであり、Yは当初、これに乗り気ではなかったこと
- その後関係が続いたものの、最終的にはAの側から関係を解消される形になったとうかがわれること
- 原告Xは、Aに対しては法的な責任追及を行わず、Yのみを相手に本件訴訟を提起していること
- XとAの婚姻関係がこの不貞行為によって決定的に破綻したとまで認めるに足りる証拠はなく、訴訟の時点でも同居が続いていたこと
そのうえで裁判所は、これらの事情を総合的に考慮し、Yが負うべき慰謝料額は100万円にとどまると判断しました。1000万円という請求額からすれば、大幅な減額です。
※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。
実務上の意味・ここがポイント
この判決からは、不貞関係が始まった経緯、とりわけ「どちらが積極的だったか」という点が、慰謝料額に影響することが分かります。配偶者側からの働きかけが強く、不貞相手側がこれに消極的な形で応じたにすぎないと評価される場合には、通常の相場から減額される可能性があるということです。
もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。不貞関係が始まった経緯、その後の婚姻関係の状況、証拠の内容などによって、結論は変わり得ます。「誘われただけだから責任は軽い」という主張が、常にこの判決と同じ程度の減額につながるとは限りません。
よくある質問
Q 配偶者から誘われて不貞関係に至った場合でも、不貞相手は慰謝料を負うのですか。
A 誘われた経緯があっても、不貞行為自体が不法行為に当たることに変わりはなく、責任がゼロになるわけではありません。もっとも、本判決のように、関係の発端や不貞相手側の消極性が認められる場合には、通常より低い金額にとどまることがあります。
Q 配偶者(妻や夫)には請求せず、不貞相手だけを訴えることはできますか。
A 可能です。不貞相手と配偶者は、それぞれ独立して不法行為責任を負う関係にあるため、いずれか一方のみを選んで請求することができます。
配偶者側の事情を踏まえた不貞相手への請求にお悩みの方へ
不貞相手への請求では、「どちらが積極的だったか」「婚姻関係が実際にどこまで悪化していたか」といった事情が、金額の見通しを大きく左右します。経緯や現在の婚姻関係の状況を伺ったうえで、請求できる金額の見通しを整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

