「その証拠、違法収集では」への反論――使える証拠と使えない証拠の境目

「その証拠、違法収集では」への反論――使える証拠と使えない証拠の境目 不倫・慰謝料

配偶者の不貞を疑って証拠を集めようとする場面では、相手に気づかれないよう会話を録音したり、日記やパソコン、スマートフォンの中身を確認したりする方法がとられることがよくあります。こうした経緯で得られた証拠について、後になって不貞相手側や配偶者側から「同意なく集めた証拠であり、裁判の場では使えないはずだ」と主張されるケースも珍しくありません。もっとも、そのような主張がそのまま認められるとは限りません。

基本的な考え方

民事訴訟には、証拠の集め方に問題があった場合にこれを証拠から除外するという規定そのものは存在しません。裁判所が証拠を退けるのは、収集の態様が度を越して不当だと評価される、限られた場面に限られます。単に「相手に無断で行った」「プライバシーに関わる方法だった」というだけでは、証拠として扱われなくなるわけではないのが実情です。

証拠として認められた収集方法の例

裁判例を見渡すと、相手の私的な領域にかなり踏み込んだ方法であっても、証拠として認められている例が少なくありません。たとえば、共用部分に設置した機材で無断に撮影を行ったケースや、操作できる状態に置かれていた端末から情報を取り出したケースについて、その収集方法に、証拠から締め出さなければならないほどの問題があったとまでは言えないと判断した裁判例が複数見られます。

これらの裁判例に共通するのは、収集の場面が第三者との共用部分であったり、端末が特にロックもされずアクセス可能な状態に置かれていたりするなど、収集された側の管理・保護の程度がそれほど高くなかった、という点です。もっとも、端末の持ち主本人の同意を得ずにメールなどの通信内容を収集する行為は、収集方法自体が別の法律(不正アクセス禁止法など)に触れかねない場合もあり、証拠として扱われたからといって、その行為自体が適法だったとは限らない点には注意が必要です。

※上記は、証拠能力が認められた複数の裁判例の傾向を筆者なりに整理したものであり、個々の判決の表現や理由づけとは異なります。

証拠として排除された収集方法の例

一方で、次のような場面での収集方法については、証拠として扱われなかった例が見られます。

  • 非公開の手続として録音が想定されていない家事調停の場に、無断で録音機器を持ち込んで記録した場合
  • 裁判の進め方を書き留めたメモ類を、係争中の相手方の自宅に無断で立ち入って持ち去った場合

近時の裁判例(旭川地方裁判所令和6年3月22日判決)では、探偵業者が依頼を受けて相手方の車両に無断でGPS機器を取り付け、追跡調査を行った事案について、調査対象とされた側が探偵業者を相手取り損害賠償を求めたところ、GPSによる追跡調査自体がプライバシー侵害に当たるとして、探偵業者に慰謝料の支払いが命じられました。行き過ぎた収集方法は、証拠として提出した場合に排除されるだけでなく、調査を行った側が別途賠償責任を負わされることもあるという点は、押さえておくべきポイントです。

※上記は、証拠能力が否定された複数の裁判例の傾向を筆者なりに整理したものであり、個々の判決の表現や理由づけとは異なります。

実務上の意味・ここがポイント――集める側の法的リスクにも注意

この分野で見落とされがちなのが、証拠が使えるかどうかという問題とは別に、証拠を集めた本人が、不貞相手や配偶者から、別途、責任を追及されるリスクです。行き過ぎた調査方法を取れば、証拠として役立たないばかりか、逆に自分が賠償責任を問われる立場に転じかねません。

この点は、依頼を受ける弁護士の側にとっても他人事ではありません。証拠の収集方法そのものに問題があるときは、それを精査せずに法廷へ持ち込んだ代理人の対応も問われかねないからです。収集経緯に問題のある証拠を十分に確認しないまま提出したことが原因で、弁護士が懲戒の対象となった例も報告されています。依頼者の意向であっても、行き過ぎた調査手法に安易に乗ることは、弁護士自身の責任問題に直結しかねません。

もっとも、これはあくまで一般的な傾向の整理です。ある収集方法が違法収集証拠として排除されるかどうかは、収集の目的、手段の必要性の程度、相手方が被る不利益の内容や程度など、個別の事情によって判断されます。同じような方法であっても、事案によって評価が分かれることがあります。

よくある質問

Q 配偶者のパソコンやスマートフォンを無断で確認して得た証拠は、必ず使えなくなりますか。

A 必ず使えなくなるわけではありません。裁判例の中には、パスワード等でロックされておらずそのまま操作できる状態だった端末から情報を得たケースなどについて、証拠能力を認めたものもあります。もっとも、収集の態様によっては証拠能力が問題になることもあるため、慎重な検討が必要です。

Q GPSを使って集めた証拠は、証拠として提出できませんか。

A GPSの使用については、証拠能力が否定される可能性が高いほか、その提出の仕方によっては弁護士が懲戒処分を受けた例もあります。GPSを用いた証拠の提出には慎重な判断が必要です。

Q 家事調停でのやり取りを録音した場合、証拠として使えますか。

A 家事調停の期日は非公開で進められ、録音も認められていません。この決まりを無視して無断で録音した場合には、証拠として認められなかった例があります。

証拠の集め方・使い方にご不安がある方へ

「この方法で集めた証拠は使えるのか」「これから証拠を集めたいが、どこまでなら問題ないか」というご相談は少なくありません。想定している収集方法の内容を伺ったうえで、証拠として使えるかどうかの見通しや、より安全な収集方法をご提案いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)