不貞をした夫からの離婚請求、別居8年でも認められないことがある――大阪高裁の判断

不貞をした夫からの離婚請求、別居8年でも認められないことがあるというテーマのイメージ図 不倫・慰謝料

「もう何年も別居しているのだから、そろそろ離婚は認められるはず」――不貞をした側から離婚を求める場面で、こうした主張がされることがあります。しかし、別居期間の長さだけで離婚が認められるわけではありません。大阪高等裁判所令和4年8月24日判決は、別居期間が8年近くに及んでいた事案で、なお離婚請求を認めなかった判断を示しています。

事案の概要

この事案の夫婦は、昭和61年に婚姻し、長男・二男・三男をもうけました。夫は医師で、大学病院等での勤務を経て、平成27年にクリニックを開業しました。妻は、婚姻当時システムエンジニアとして勤務しており、出産後も産休を取得して勤務を続けていましたが、平成5年、夫の留学に同行することになったのを機に退職し、平成7年の帰国後は、生命保険の営業や、塾・英会話教室の講師などをして働いていました。

夫婦は平成13年、夫名義で不動産を取得し、家族で同居するようになりました。

夫は、平成9年頃、勤務先の秘書と不貞関係を持ったことがありましたが、この関係はその後解消されています。さらに夫は、平成22年頃までに、同僚の医師と不貞関係を持つようになり、同年、この関係が妻に発覚しました。妻は夫に対して不貞相手と別れるよう求めましたが、夫はこれに応じませんでした。

平成26年3月、夫は、当時14歳だった三男を自宅に残したまま、単身で別に居を構え、妻との別居に至りました。もっとも、夫はその後も、週に2、3回程度、三男と夕食を共にするために自宅を訪れていました。また、夫は同年12月頃、住民票上の住所を、不貞相手の住所と同一の場所に異動させています。

別居後も、夫の母親はしばらく自宅で妻と同居を続けていましたが、その後、有料老人ホームに入居しました。母親が自宅を出た後も、夫と妻は母親の様子や体調についてメールなどで連絡を取り合っており、令和3年に母親が亡くなった際の法要にも、妻が参列しています。このほか、長男家族が帰省した際の会食や、二男の結婚に伴う両家の顔合わせにも、夫婦としてそろって参加していました。

夫はこの状況のもと、妻に対して離婚を求める訴えを提起しました。控訴審の口頭弁論終結時点における別居期間は約8年2か月、同居期間は27年から28年に及んでいました。

争点

争点は大きく2つありました。1つは、夫婦の間に婚姻を継続し難い重大な事由があるかどうかです。もう1つは、婚姻関係の破綻について自ら不貞行為という原因を作った夫(有責配偶者)からの離婚請求が、認められるかどうかです。

裁判所の判断

裁判所は、夫婦間に婚姻を継続し難い重大な事由があること自体は認めました。しかし、夫が有責配偶者であることを踏まえ、夫からの離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるかどうかを、別途検討しました。

この点について裁判所は、最高裁判所昭和62年9月2日大法廷判決が示した判断基準に基づいて検討しています。この最高裁判決は、有責配偶者からの離婚請求であっても、①夫婦の別居が、両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること、②夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど、離婚請求を認めることが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと、という3つの要素を満たす場合には、離婚請求を許容し得るとする考え方を示したものです。

本件についてみると、同居期間が27年から28年に及ぶのに対し、別居期間は約7年9か月から8年2か月にとどまっており、この対比だけを見れば、決して短い別居期間ではありません。しかし裁判所は、別居期間の長さを数量的に対比するだけでは足りないとしました。そのうえで、別居中も、夫が三男と夕食を共にするために週2回程度自宅を訪れていたこと、夫の母親の様子について夫婦間で連絡を取り合っていたこと、長男家族との会食や二男の結婚の顔合わせ、夫の母親の法要に夫婦としてそろって参加していたことなど、別居期間中も一定の夫婦としての関わりが続いていた事実を認定しました。

これらの事情から裁判所は、別居期間中、夫婦が完全な別居状態、あるいは夫婦関係が断絶した状態にあったとまではいえないと評価しました。さらに、時間の経過によって、夫の不貞という有責行為に対する社会的な評価が薄れたとか、離婚を認めなければならないほど新たに保護すべき生活関係が形成されたともいえないとしました。

以上を踏まえ、裁判所は、夫からの離婚請求は信義誠実の原則に反し許されないと判断し、控訴を棄却しました。

※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。

実務上の意味・ここがポイント

「別居期間が長ければ、有責配偶者からの離婚請求でも認められる」というイメージを持たれがちですが、この判決例からは、別居の「年数」だけで結論が決まるわけではないことが分かります。ポイントは、別居期間中、夫婦としての関わりが実質的にどれだけ残っていたかという点です。

本件では、子どもとの夕食のために定期的に自宅を訪れていたことや、双方の親族の冠婚葬祭に夫婦としてそろって参加していたことなどが、「完全な別居状態とはいえない」という評価につながりました。形式的には長期間別居していても、こうした関わりが積み重なっていると、有責配偶者側の離婚請求にとっては不利に働くことがあるということです。

反対に、離婚を求められている側(有責配偶者ではない側)の立場からすると、別居期間中も、こうした夫婦としての関わりの実態を具体的に主張・立証できるかどうかが、離婚請求を退けるうえで重要な意味を持ち得るといえます。

別居年数だけでは予測できない――総合判断であることの意味

別居期間の絶対的な年数だけを取り出しても、結論を予測することはできません。最高裁判例を見ても、同居期間との対比によって評価は大きく分かれています。たとえば、別居期間が約10年3か月や約13年11か月に及んだ事案では、いずれも相当の長期間に及んでいると判断された一方、別居期間が約8年に及んでいても、同居期間が26年から28年程度と長い事案では、相当の長期間とはいえないとされた例があります。本件も、まさにこの後者のパターンにあたります。

こうした裁判例の傾向について、実務上は、別居期間が5年から7年前後になった頃から判断が分かれ始めるのではないか、との指摘もあります。もっとも、これもあくまで大まかな目安にすぎません。同居期間や当事者の年齢との対比、未成熟子の有無、相手方配偶者が離婚により過酷な状態に置かれないかどうか、そして本件のように別居期間中に夫婦としての交流がどれだけ残っていたか――こうした事情を総合的に考慮した結果として、個々の事案ごとに結論が導かれているのが実際のところです。「別居○年だから大丈夫(あるいは、まだ無理)」という単純な年数基準で判断するのは危険だといえます。

もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。同居期間・別居期間の長さ、未成熟子の有無、別居中の交流の実態などによって、結論は変わり得ます。同じような別居期間であっても、必ずこの事案と同じ結論になるとは限りません。

よくある質問

Q 配偶者の不貞が原因で別居していますが、何年別居すれば離婚が認められますか。

A 別居期間の長さだけで一律に決まるものではありません。同居期間との対比に加え、未成熟の子の有無や、離婚後の生活への影響、別居期間中の交流の実態など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。実務上は、別居期間が5年から7年前後になった頃から判断が分かれ始めるとの指摘もありますが、これもあくまで目安であり、この判決例のように、別居期間が8年を超えていても認められないことがあります。

Q 別居中でも、子どものために元配偶者と顔を合わせたり、連絡を取ったりしています。これは離婚に不利になりますか。

A この判決例のように、別居中の夫婦としての関わりの実態が、「完全な別居状態とはいえない」と評価される方向に働くことはあり得ます。もっとも、お子さんのための関わりをやめるべきだという趣旨ではなく、離婚を求める側・求められる側、それぞれの立場でどのような事情が重視され得るかを理解しておくことが大切です。

Q 自分が不貞をした側です。別居生活が長くなれば、いずれ離婚は認められますか。

A 別居期間が長くなるほど、離婚が認められる可能性は一般に高まる傾向にありますが、必ず認められるとは限りません。この判決例のように、別居期間中の交流の実態などによっては、別居期間が数量的には長くても、離婚請求が認められないことがあります。

離婚請求の可否についてご不安がある方へ

別居に至った経緯や、別居期間中のやり取りの実態を伺ったうえで、離婚請求が認められそうかどうか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)