円満だった夫婦に里帰り出産中の不貞――200万円が認められた事案

円満だった夫婦に里帰り出産中の不貞――200万円が認められた事案のイメージ図 不倫・慰謝料

「不貞相手に請求できる慰謝料なんて、せいぜい100万円前後だろう」——そのようなイメージを持っている方は少なくありません。もっとも、実際の裁判例では、それを超える金額が認められることもあります。東京地方裁判所平成24年3月26日判決は、不貞相手に対する慰謝料額として200万円を認めた事案ですが、その金額がどのように導かれたのかを見ると、実務上示唆に富む内容になっています。

事案の概要

この事案の原告(妻)と夫Aの夫婦関係は、それまで特段の問題もなく穏やかなものでした。ところが被告(不貞相手)は、原告が第一子を出産するために実家に戻っていた時期に夫Aと関係を持ち、その後もこの関係を続けました。原告は、この不貞行為によって多大な精神的苦痛を受けたとして、被告に対し損害賠償を求めました。

争点

本件では、不貞行為の存在自体に争いはなく、これによって原告が被った精神的苦痛をどの程度の金額に見積もるべきかが主な争点となりました。被告は、訴訟の中で、200万円程度の支払であれば応じる姿勢を示しており、この点も踏まえてどのような金額が相当かが問題になりました。

裁判所の判断

裁判所は、まず、夫婦関係が破綻に至った経緯として、次のような事情を認定しました。

  • 不貞行為が始まるまで、原告とAの夫婦関係は特に問題のない状態だったこと
  • 被告が、原告にとって支えを必要とする出産・里帰りの時期に不貞関係に及び、その後も関係を継続したこと
  • 原告が提訴した後、Aが感情的な言動で原告に心理的な圧力をかけ、これまで渡していた生活費を大きく切り詰め、さらに同居の継続を拒む趣旨の書き置きを残して、原告が子を連れて実家に戻らざるを得ない状況をつくったこと
  • こうした一連の経緯からみて、原告とAの夫婦関係が破綻に至った主な原因は本件の不貞行為にあると認められること

そのうえで裁判所は、これらの事情に加えて、被告自身が本件不貞の慰謝料としては200万円程度であれば相当であると認めていたことも踏まえ、本件不貞行為に基づく慰謝料額としては200万円とするのが相当であると判断しました。判決の文言上、200万円という金額は、(1)〜(4)の事情のみから独自に算定されたというより、被告が自認していた金額を、それらの事情と矛盾しないものとして是認する形で導かれたと読むこともできます。

※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。

実務上の意味・ここがポイント

この判決で注目したいのは、200万円という金額が、夫婦関係が破綻に至った経緯(円満だった夫婦関係、出産・里帰り中の不貞、発覚後の配偶者の対応など)から独自に積み上げられた金額というより、被告自身がその水準であれば相当と認めていたことを、裁判所がそのまま是認する形で導かれている可能性が高いという点です。

認定された経緯自体は、不貞相手に対する請求として特段珍しいものではなく、これだけで通常のアベレージゾーンを大きく超えて200万円まで押し上げるほどの事情とまでは言い切れません。むしろ、被告側が訴訟の中で200万円程度の支払を認める姿勢を示していたことが、この金額が確定した大きな要因になっていると考えられます。

実務上の教訓としては、不貞相手側の代理人としては、交渉・訴訟の初期段階で安易に一定の金額水準を認める言動をすると、裁判所がその水準をそのまま是認する形で判決に反映されるリスクがあるということです。逆に請求する側としては、相手方がどのような金額水準であれば応じる姿勢を示しているかを把握しておくことが、金額の見通しを立てるうえで有用な情報になります。

もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。被告がどのような発言・対応をしたか、それが訴訟記録上どこまで明確に現れているかなどによって、裁判所の評価は変わり得ます。同じような経緯の事案であっても、必ずこの判決と同じ結論になるとは限りません。

不貞慰謝料の一般的な傾向

ここで前提として整理しておきたいのが、「離婚慰謝料」と一括りに語られるものの中身です。離婚慰謝料は、理論上、次の2つの要素に分けられます。

  • 離婚自体慰謝料:離婚を余儀なくされたこと自体による精神的苦痛への賠償。これは夫婦という身分関係にあった配偶者に対してのみ発生するものであり、不貞相手には、原則として、請求できません。
  • 離婚原因慰謝料:不貞行為など、離婚の原因となった個別の不法行為そのものによる精神的苦痛への賠償。こちらは、行為を行った配偶者・不貞相手の双方に発生し得ます。

不貞相手に対して請求できるのは、このうち離婚原因慰謝料の部分のみです。インターネット上でよく紹介される「離婚慰謝料200万円〜300万円」といった相場観は、離婚自体慰謝料と離婚原因慰謝料を合算した、配偶者に対する請求額を念頭に置いていることが多く、不貞相手一人に対する請求額とは前提が異なります。

この前提を踏まえると、不貞相手に対する慰謝料額は、インターネット上で紹介されている200万円〜300万円程度という相場よりも低い水準に収まることが多く、不貞が原因で離婚に至った事案であっても、100万円〜150万円程度がアベレージゾーンといえます。

アベレージゾーンを超える金額が認められるのは、典型的には、不貞行為の期間・頻度が著しい場合や、悪質性を裏付ける具体的な事情がある場合です。今回ご紹介した判決は、200万円という結果だけを見ればこのアベレージゾーンを超えていますが、前記のとおり、その主な要因は事情の悪質性そのものというより、被告側が訴訟の中で示していた金額水準にあったとみられ、増額事案の典型例としてそのまま一般化するのは注意が必要です。

金額が増減する主な事情としては、

  • 不貞関係の期間の長さや頻度
  • 不貞相手が既婚者であることを知っていたか(故意の有無)
  • 妊娠・出産の有無や、子どもを巻き込む行為の有無
  • 婚姻関係が破綻に至った経緯における不貞相手の関与の程度

などが挙げられます。反対に、不貞相手が既婚者であることを知らず、知らなかったことに落ち度もなかったと認められる場合には、慰謝料請求自体が認められないこともあります。

よくある質問

Q 不貞相手への慰謝料請求は、配偶者への請求と別に行う必要がありますか。

A 不貞相手と配偶者は、法律上、共同不法行為者としてそれぞれ責任を負うのが原則です。そのため、いずれか一方のみに請求することも、双方に請求することも可能です。ただし、二重取りにならないよう請求額の調整が必要になる場合があります。

Q 不貞相手が「既婚者だと知らなかった」と主張しています。この場合は請求できませんか。

A 知らなかったことについて不貞相手に落ち度(過失)もないと認められる場合には、請求が認められない可能性があります。もっとも、実際に「知らなかったことに落ち度もない」と認められるケースは限定的です。

Q 不貞の回数や期間が分かる証拠がなくても、慰謝料請求はできますか。

A 証拠が乏しい場合でも請求自体は可能ですが、期間や頻度、態様の悪質性を裏付ける証拠があるほど、認められる金額に反映されやすくなります。

不貞相手への慰謝料請求にご不安な方へ

不貞相手への請求は、証拠の整理や相手方の反論への対応など、配偶者本人への請求とは異なる難しさがあります。事案の経緯や手元にある証拠の内容を伺ったうえで、請求できる金額の見通しや進め方を整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)