「知らなかった」「聞いていた」は通用するか―不貞慰謝料における故意・過失の分かれ目と、立証に役立つ証拠

「知らなかった」「聞いていた」は通用するか―不貞慰謝料における故意・過失の分かれ目と、立証に役立つ証拠 不倫・慰謝料

不貞慰謝料の相手方から、「相手が結婚しているとは知らなかった」「もう夫婦関係は終わっていると聞いていた」という弁解を受けることは少なくありません。しかし裁判例をみると、こうした弁解が認められて責任を免れられるケースはむしろ少数派であり、多くの事案で「知らなかったこと(あるいは誤信したこと)について、少なくとも過失があった」と判断されています。今回は、実際にどのような事情があると過失が認定されてしまうのかを、裁判例をもとに整理します。

※以下で紹介する各裁判例の内容は、判決文そのものではなく、要旨を筆者において要約・整理したものです。実際の判決文の表現や事案の詳細とは異なる場合があります。

  1. 表記について
  2. 1 過失は「重大な不注意」でなくても認められる
  3. 2 「配偶者がいるとは知らなかった」―それでも過失が認められる代表的な事情
    1. (1) 生活状況から、同居者の存在をうかがわせる事情に気づけたはずの場合
    2. (2) 相手の説明を鵜呑みにし、裏付けを取ろうとしなかった場合
    3. (3) 一度でも虚偽の説明が発覚していたのに、それでも確認をしなかった場合
    4. (4) 相手から受け取った言葉自体が、実は婚姻関係の存在をにおわせていた場合
  4. 3 配偶者の存在について過失が認められなかった裁判例
  5. 4 「もう婚姻関係は破綻していると聞いていた」―それでも過失が認められる代表的な事情
    1. (1) 婚姻関係が継続していることをうかがわせる事実を、実は認識していた場合
    2. (2) 交際を始めた時点で、まだ別居すら始まっていなかった場合
    3. (3) 説明の根拠が、既婚者の言葉のみにとどまっていた場合
  6. 5 婚姻関係の破綻を信じたことについて過失が認められなかった、きわめて限定的な例
  7. 6 まとめ―過失が認められる共通点
  8. 7 請求する側に有利に働く証拠の具体例
    1. (1) 配偶者の存在をうかがわせる客観的な生活状況
    2. (2) 交際相手が確認しなかったこと・確認できたはずであることを示す事情
    3. (3) 婚姻関係が継続していたことを示す客観的な証拠
    4. (4) 交際相手と既婚者とのやりとり自体
    5. (5) 証拠発覚後の対応
  9. よくある質問
  10. 不貞問題にご不安な方へ

表記について

以下では、話を分かりやすくするため、次の呼び方を使います。

  • 既婚者……不貞行為をした配偶者のいる人
  • 交際相手……既婚者と関係を持ち慰謝料を請求される立場になった人
  • 配偶者……既婚者の配偶者であり慰謝料を請求する人

1 過失は「重大な不注意」でなくても認められる

不貞慰謝料が認められるためには、交際相手に故意または過失があることが必要です。ここでいう故意とは、①既婚者に配偶者がいるという事実の認識、②その婚姻関係が破綻していないという認識、この2点があれば足り、「相手を傷つけてやろう」といった積極的な加害の意図までは不要とされています。

過失についても同様で、重大な不注意(重過失)までは必要とされておらず、軽い不注意(軽過失)があれば足りるとされています。つまり、交際相手が配偶者の存在や婚姻関係の状況に気づく手がかりが何かしらあったにもかかわらず、それを確かめようとしなかった場合には、比較的容易に過失が認定される、という構造になっています。

裁判所が過失の有無を判断する際の視点は一貫しています。交際相手自身が主観的にどう思っていたかではなく、一般の人であれば同じ状況に置かれたときにどう判断したか、という客観的な基準です。裏付けとなる事実を確かめる行動を取らなかった場合、「そう信じたことに無理はない」とは評価されにくいのです。

2 「配偶者がいるとは知らなかった」―それでも過失が認められる代表的な事情

配偶者の存在自体を知らなかったと主張するケースでは、次のような客観的な事情があると、「知らなかったことについて過失がある」と判断される傾向が強くあります。

(1) 生活状況から、同居者の存在をうかがわせる事情に気づけたはずの場合

交際相手が既婚者の自宅に複数回出入りしていた事案では、その住居がファミリー向けの間取りであったこと、就寝したベッドに枕が二つ並んでいたことなど、明らかに単身者の暮らしとは異なる客観的状況が認められました。裁判所は、交際相手がこうした状況を実際に目にしていた以上、配偶者と同居している可能性を認識することは容易であったと判断し、「電気が消えていてよく見ていなかった」といった弁解についても、供述があいまいであるとして退けています。

(2) 相手の説明を鵜呑みにし、裏付けを取ろうとしなかった場合

既婚者から交際を持ちかけられた際に、配偶者の悪口や家庭内の不満を聞かされ、しかも交際が相応に親密な関係に至った後になっても、相手の身の上について一切確認しようとしなかった、という事案があります。裁判所は、同じ職場に勤めているのであれば、他の関係者にそれとなく尋ねる方法もあったはずだと指摘し、何ら確認をせずに関係を継続したことについて過失を認めています。

また、見た目の年齢からすれば婚姻経験があると考えられる状況だったにもかかわらず、既婚かどうかを確認することをせず、自分に都合よく「独身だろう」と軽信していたケースについても、同様に過失(しかも重い過失)が認められています。

(3) 一度でも虚偽の説明が発覚していたのに、それでも確認をしなかった場合

交際の過程で、既婚者から従前の説明と異なる事実(たとえば、実は子どもがいるということ)を打ち明けられていたにもかかわらず、その後も特段の裏付けを取ることなく、「もう離婚している」というさらなる説明をそのまま信じ続けた、という事案があります。裁判所は、一度でも重要な事項について虚偽の説明を受けていた以上、その時点で相手の言葉の信用性はほぼ失われていたと考えるのが通常の判断であるとして、それでもなお裏付けを取らなかったことに過失があると判断しています。

(4) 相手から受け取った言葉自体が、実は婚姻関係の存在をにおわせていた場合

既婚者から受信したメッセージの中に、配偶者との生活ぶりや配偶者への気持ちを示す言葉が含まれていたケースでは、そのメッセージの内容自体から、婚姻関係が形だけのものではなく実体を伴っていることを読み取れたはずだとして、過失が認められています。

3 配偶者の存在について過失が認められなかった裁判例

他方で、次のような客観的な事情がある場合には、「配偶者の存在に気づけなかったとしても仕方がない」として、過失が否定されています。過失が肯定される事案との違いは、単に「気づかなかった」かどうかではなく、気づく契機となる客観的な事情自体が乏しかったかどうかにあります。

  • 既婚者が配偶者と別居し、友人や親族と同居していた事案では、交際相手が既婚者だと認識していなかったことに無理はなく、認識できたはずだという事情を裏付ける証拠もないとして、過失が否定されました。なお、この事案では、交際相手は後に既婚者だと知った時点で、速やかに肉体関係を伴う交際を終了させています。
  • 既婚者が経営する店で知り合った事案では、既婚者が営業中に結婚指輪など婚姻関係をうかがわせる物を身に着けておらず、配偶者もその店の営業には関与しておらず交際相手と面識もなかったことから、交際相手が既婚者であることに気づく契機自体がなかったとして、過失が否定されました。
  • 同じ会社に勤務していた事案でも、支社が異なり研修後は接点がなく、既婚者本人からも結婚している旨を伝えられておらず、見た目や振る舞いからも既婚者らしい様子がうかがえなかった場合には、勤務先が同じというだけでは既婚者であることを知っていたとは推認できないとして、過失が否定されました。
  • 深夜に偶然出会った既婚者が、自ら既婚者であることをあえて告げず、結婚指輪も着けていなかった事案では、年齢的に婚姻していても不思議ではなかったとしても、積極的に疑うべき事情がなかったこと、また既婚であることを隠していた本人に確認したとしても真実を答えたとは考えにくいことから、過失は認められませんでした。
  • 待ち合わせ場所や自宅への送迎の有無について、既婚者側の事情(同じマンションの住民に交際を知られたくない等)で合理的に説明できる場合には、それだけで配偶者の存在を疑わせる具体的な事情があったとはいえないとして、過失が否定された例もあります。
  • 妊娠を希望する女性がマッチングサービス等を通じて交際相手を探していた事案のように、性質上、相手が独身であることが暗黙の前提とされる場面では、それを積極的に疑わなかったとしても、そのことをもって過失があるとはいえないとされた例もあります。

4 「もう婚姻関係は破綻していると聞いていた」―それでも過失が認められる代表的な事情

配偶者の存在は知っていたものの、「実質的に婚姻関係は終わっている」と聞かされていた、という弁解も頻繁に見られます。しかし、この種の弁解が認められるハードルは、配偶者の存在自体を知らなかった場合よりもさらに高いといえます。

そもそも、不貞関係に及ぼうとする既婚者が、交際相手の気を引くために配偶者を殊更悪く言ったり、「別れるつもりだ」などと伝えたりすること自体、裁判所も「想像に難くない」ごくありがちな言動として位置づけています。そのため、一方配偶者からそのような話を聞かされたというだけでは、婚姻関係の破綻を裏付ける客観的な事実まで認識していない限り、過失は否定されないという厳しい枠組みが取られています。

(1) 婚姻関係が継続していることをうかがわせる事実を、実は認識していた場合

交際相手が、既婚者とその配偶者が家族旅行の相談をしていたことや、二人が同居を続けていたことを認識していながら、それでも「関係は破綻している」という既婚者の言葉をそのまま信じたという事案があります。裁判所は、そうした事実を認識していた以上、婚姻関係が破綻していないことは容易にわかったはずだとして、過失を認めています。

同様に、請求する側の配偶者から直接電話で連絡を受け、既婚者と会わないよう求められ、関係修復を望む態度を示されていたにもかかわらず、その直後に既婚者と別居を始めたという事情だけで「もう修復の見込みはない」と安易に判断したケースでも、慎重な検討を怠ったとして過失が認められました。

(2) 交際を始めた時点で、まだ別居すら始まっていなかった場合

交際を開始した当初、既婚者がまだ配偶者と同居しており、別居すら始めていなかったことを認識していたケースでは、その後「離婚に合意した」と伝えられても、交際相手としては、配偶者との連絡を絶っていることを確認する、週末や休日に配偶者との交流がないか確かめてみるなど、客観的に確認する手段があったはずだとされ、それを怠ったことについて過失が認められています。

(3) 説明の根拠が、既婚者の言葉のみにとどまっていた場合

「配偶者とは合意の上で別々に暮らしている」「相手方から離婚の申出があった」といった既婚者側の説明を信じていたと交際相手が主張したケースでは、その説明の裏に、配偶者が実際には関係の継続や別居の解消を望んでいたという事情があったことが認められ、既婚者の言葉だけを根拠に、それ以上の確認をしなかったことに過失があるとされました。

さらに、交際が始まってから相当期間が経過した後の時点であっても、既婚者と配偶者が離婚することが実際には難しい状況にあることを容易に認識できたはずだとして、既婚者が「離婚の可能性」を示唆しながら関係を継続させようとしているだけであることを見抜けなかった点について、過失が認められた例もあります。

5 婚姻関係の破綻を信じたことについて過失が認められなかった、きわめて限定的な例

「婚姻関係は破綻している」という誤信について過失が否定された裁判例は非常に少なく、確認できたものもかなり特殊な事案です。

  • 既婚者から夫と離婚する旨を聞いた時点で、実際に離婚に合意し離婚届に署名押印して条件も大筋で定めていたなど、具体性・迫真性のある事実を伴っていた事案では、交際相手がその説明を信じたことについて過失は認められませんでした。この事案では、交際相手が既婚者の元自宅に立ち入っていないことについても、心情的な抵抗として不自然ではないと評価されています。
  • 交際相手が知人から既婚者に配偶者がいると聞き、既婚者本人に確認したところ、配偶者とは2年以上性交渉がなく実質的な婚姻関係にないと説明されました。加えて、既婚者が交際相手と関係を持つ以前から、深夜の電話連絡や仕事関係者との深夜の会食など、婚姻関係が円満であることとは相容れない言動をとっていたこと、その後既婚者が交際相手の住居に移り住み、配偶者の存在を確認した後も1か月以上共同生活を続け、その間自宅に戻る様子がうかがえなかったことなど、婚姻共同生活の実態が失われていたことを裏付ける事情が重なっていました。裁判所は、配偶者の存在を確認した後の期間について、交際相手が婚姻関係の破綻を信じたことに過失はないと判断しています。この裁判例はいわば例外中の例外であり、ここまで特殊な事情が重ならない限り、通常は同種の弁解で過失を免れるのは難しいと考えておくべきでしょう。

6 まとめ―過失が認められる共通点

ここまで見てきた裁判例に共通するのは、次のような構造です。

  • 疑うきっかけとなる客観的な事情(住居の状況、相手や周囲の言動、以前の虚偽発覚など)が、実際には存在していた
  • それにもかかわらず、交際相手がその事情を確かめる行動を取らなかった、あるいは相手の説明を無批判に受け入れた
  • 交際相手の弁解が、専ら「既婚者本人からそう聞いていた」という伝聞にとどまり、それ以上の裏付けがなかった

特に、婚姻関係の破綻を理由とする弁解については、一方配偶者の言葉というだけで信用性が高いとはいえないというのが、裁判所の一貫した姿勢です。交際を続けるかどうかを判断する場面で、相手の説明を鵜呑みにせず、確認できる事情を確認したかどうかが、過失の有無を大きく左右しているといえるでしょう。

もっとも、これはあくまで個別の事案における裁判所の判断です。交際の経緯、確認の機会の有無、相手や周囲の言動など、事案ごとの具体的な事情によって結論は変わり得ますので、似たような状況だからといって、必ず同じ結論になるとは限りません。

7 請求する側に有利に働く証拠の具体例

以上を踏まえると、相手方の「知らなかった」「聞いていた」という弁解に対しては、次のような証拠がある場合に、故意・過失の立証において有利に働くと考えられます。

(1) 配偶者の存在をうかがわせる客観的な生活状況

  • 交際相手が既婚者の自宅に出入りしていた証拠、その住居の間取りや家財道具の状況(写真、目撃証言等)
  • 交際相手が既婚者の生活実態(同居の様子、家族の存在等)を実際に見聞きしていたことをうかがわせる客観的な証拠(LINEやメールのやりとりなど)

(2) 交際相手が確認しなかったこと・確認できたはずであることを示す事情

  • 交際相手と既婚者との共通の職場・知人関係の有無(確認しようと思えばできたことを示す事情)
  • 交際相手が既婚者の説明のみに依拠しており、それ以外に裏付けとなる資料を一切確認していなかったことを示す証拠(LINEやメールのやりとりなど)

(3) 婚姻関係が継続していたことを示す客観的な証拠

  • 同居を継続していたことを示す証拠(住民票、公共料金の請求先、生活費の負担状況等)
  • 配偶者と既婚者が家族旅行や行事に参加していた記録(写真、SNS投稿、予約記録等)
  • 配偶者から関係修復を求める意思を伝えていた記録(メール、LINE、通話履歴等)

(4) 交際相手と既婚者とのやりとり自体

  • LINEやメールのやりとりの中に、婚姻関係が実体を伴っていることをうかがわせる証拠(配偶者への言及、生活ぶりに関する発言等)
  • 交際相手が「バレないように」といった発言をしているような証拠

(5) 証拠発覚後の対応

  • 配偶者の存在や婚姻関係の継続を交際相手が認識した後も、関係を継続していたことを示す証拠(メールやLINEのやりとり、弁護士からの内容証明送付後に密会している状況を撮影した写真等)。継続していれば、その時点以降について故意の存在が認めやすくなります。
  • 探偵の調査報告書など、不貞行為の期間・態様を客観的に裏付ける資料

これらの証拠は、故意・過失いずれの立証においても共通して重要です。

よくある質問

Q1.「相手が独身だと言っていた」という言い分だけで、過失は否定されますか。

基本的には否定されません。裁判例上、言葉だけでなく、それを裏付ける客観的な事情(住居の状況、共通の知人からの情報、確認しようとした証拠の有無など)が重視されています。

Q2.配偶者がいることを後から知った場合、それまでの責任は免れますか。

知った時点までの行為については、その時点までの認識・確認の程度によって判断されます。ただし、知った後も関係を継続した場合には、その時点以降について改めて故意による不法行為が問題となり得ます。

不貞問題にご不安な方へ

「相手に配偶者がいるとは知らなかった」「もう関係は終わっていると聞いていた」という事情がある場合でも、それだけで責任を免れられるとは限りません。慰謝料請求を検討されている方にとって、相手方の言い分に対してどのような証拠で反論できるかが、解決の見通しを大きく左右します。

不貞慰謝料に関するご相談は、中目黒さくら法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。また、紹介した裁判例の内容は、判決文そのものではなく、要旨を筆者が要約・整理したものです。実際の判決文とは表現が異なる場合があります。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)