宿泊付き面会交流、認められるのはどんなとき? ―― 東京高裁が示した「年4回・1泊」の線引き

宿泊付き面会交流、認められるのはどんなとき?――東京高裁が示した「年4回・1泊」の線引き 面会交流

離婚後、子と別居する親(別居親)との面会交流を巡ってしばしば争いになるのが、「日帰りなら仕方ないが、宿泊を伴う面会交流だけは認めたくない」という同居親の思いです。実際、別居親との紛争が長引くほど、同居親の不信感は根強くなりがちです。しかし、東京高等裁判所は、そうした同居親の不信感だけでは宿泊付き面会交流を否定する理由にはならないとする判断を示しました。

事案の概要

同居親である母(抗告人)と別居親である父(相手方)との間には、8歳になる子がいました。前件の審判により、父と子の面会交流の実施要領がすでに定められており、その要領に沿った面会交流が一定期間継続されていました。今回問題となったのは、その面会交流に「宿泊」を組み込むことの可否です。

母は、父との一連の紛争を通じて父に対する信頼を完全に失っており、宿泊を伴う面会交流に父が問題なく対応できるとは思えないと主張しました。これに対し父は、子はすでに小学校に入学しており、年齢相応に心身も発達しているのだから、1泊程度母と離れて過ごすことは十分に可能だと反論しました。

原審(千葉家庭裁判所)は父の主張を採用し、年4回、1泊付きの面会交流を認める審判をしました。母はこれを不服として即時抗告しましたが、東京高裁は令和4年2月21日、母の抗告を棄却し、原審判を維持しました。

争点

宿泊を伴う面会交流を実施することの可否、特に、同居親が別居親に対して抱く不信感が、宿泊付き面会交流を拒む理由として認められるかが争点となりました。

裁判所の判断

抗告審が是認した原審判は、おおむね次のような理由づけをしています。

まず、宿泊付き面会交流に反対する母自身、父と子との関係が悪いとまでは主張していませんでした。実際、前件審判後の実施要領に沿った面会交流において、父と子の交流は良好に続いており、親子としての親和的な関係が維持・形成されている状況にありました。

また、前件審判の確定からすでに2年6か月以上が経過しており、審判当時は幼稚園児だった子も、小学3年生に成長していました。洗面や入浴といった身の回りのことも、それなりに自分でこなせる年齢に達していると認められることから、一定程度の宿泊を伴う面会交流を実施しても、子に過剰な精神的・肉体的負担を課すおそれは生じないと判断されました。

もっとも裁判所は、無制限に宿泊付き面会交流を認めたわけではありません。子は父と別居してから5年以上、父と同居した経験がないという事情も踏まえ、毎月の面会交流のたびに宿泊を組み込むと、かえって子に過大な負担を与えかねないとしました。そのため、小学校の長期休暇期間を中心に、年4回に限って宿泊付きとするのが相当と結論づけています。

具体的には、毎月実施される面会交流のうち、1月・3月・8月・10月の4回について宿泊付きとし、宿泊日の午前10時から翌日午後2時までとする内容で認められました。

※上記は決定(審判)の要旨をまとめたものであり、決定文(審判文)そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。

実務上のポイント

この事例から読み取れる実務上のポイントは、大きく2つあります。

1つ目は、「同居親の不信感」そのものは、宿泊付き面会交流を否定する決定的な理由にはならないという点です。本件で裁判所が重視したのは、母の主観的な不信感ではなく、これまでの面会交流が実際に円滑に実施されてきたかどうか、子と父との関係が客観的にどう評価できるかという実績面でした。

2つ目は、子の年齢や発達段階、別居親との同居経験の有無・期間が、宿泊付き面会交流の「回数」や「頻度」を左右する重要な要素になるという点です。本件では、子が父と長期間同居していないことが考慮され、宿泊付き面会交流を「毎月」ではなく「年4回」に絞る形で、子への負担と父子の交流機会とのバランスが図られています。

なお、民法766条1項の改正(令和8年4月1日施行)により、条文上「面会交流」という呼称は「父又は母と子との交流」(一般に「親子交流」)に改められています。本件は改正前の事案であるため「面会交流」という呼称を用いていますが、名称の変更にかかわらず、実際に審判の場で宿泊を伴う交流が認められる例は、決して多くないというのが実務上の感覚です。前件審判からの経過期間や、これまでの交流の実施実績、子の発達状況といった諸事情が積み重なって初めて認められるものであり、本件はその意味で比較的踏み込んだ判断がされた事例といえます。

もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。子の年齢や従前の面会交流の実施状況、当事者間の関係性は事案ごとに大きく異なるため、常に同じ結論になるとは限りません。

よくある質問

Q1. 同居親が「信頼できない」と言えば、宿泊付き面会交流を止められますか?

A. 本件のように、それだけでは足りないと判断される可能性があります。裁判所は、これまでの面会交流の実施実績や、子と別居親との関係の実態を重視する傾向にあります。

Q2. 子が何歳になれば宿泊付き面会交流が認められやすくなりますか?

A. 明確な年齢基準があるわけではありません。本件では8歳(小学3年生)で身の回りのことがある程度自分でできる点が考慮されましたが、あくまで個別の発達状況や従前の交流実績と合わせて総合的に判断されます。

Q3. 一度、月1回の宿泊付き面会交流を求めても、そのとおり認められないことはありますか?

A. あります。本件でも、別居親との同居経験が長期間ないことなどを理由に、頻度を「年4回」に限定する判断がされています。求める頻度や内容は、子の負担とのバランスを踏まえて調整されることが多いです。

面会交流にご不安な方へ

面会交流の頻度や宿泊の可否を巡る話し合いは、当事者だけで進めると感情的な対立が先鋭化しやすい分野です。「相手を信頼できない」という気持ちと、「子にとって何が望ましいか」という視点をどう整理し、裁判所にどのような形で主張・立証していくかは、専門的な知見が必要になります。面会交流の条件でお悩みの方は、早めに弁護士へご相談されることをお勧めします。

※本コラムは、公開されている裁判例集の情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案における結論を保証するものではなく、法的助言に代わるものでもありません。具体的な事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)