「うちは専業主婦だったから、夫の取り分のほうが多くなるはず」——離婚を考え始めたとき、そう不安に思う方は少なくありません。特に、夫が婚姻後に難関資格を取得し、収入が大きく伸びたようなケースでは、「自分の資格と努力で稼いだのだから、多くもらって当然だ」と主張されることもあります。しかし、実際の家庭裁判所は、必ずしもそう判断するとは限りません。東京家庭裁判所令和3年11月25日審判は、この不安に一つの答えを示しています。
事案の概要
申立人(元妻)と相手方(元夫)は、婚姻し、3人の子をもうけました。相手方は、婚姻した当時はまだ大学生でしたが、その後大学院に進学して卒業し、大学院在学中から税理士事務所に勤務するようになりました。そして、婚姻から13年ほど経った時点で税理士資格を取得し、その後、同じ税理士事務所の経営を引き継ぐとともに、会社の代表者も務めるようになりました。
申立人は、婚姻後、専業主婦として家庭に入っていました。離婚に伴う財産分与の審判手続の中で、形成された財産に対する寄与の割合(寄与度)をどう考えるかが争点となりました。
争点 夫から「6対4」を主張された
このケースで相手方(夫)は、次の2点を理由に、財産分与の寄与度は、自分が6割、申立人(妻)が4割とするのが相当であると主張しました。妻からすれば、当然に確保できると思っていた2分の1の取り分を、正面から減らされようとした形です。
- 相手方名義の資産形成は、もっぱら税理士である相手方自身の手腕や能力によるものであること
- 申立人は専業主婦であったにもかかわらず、自宅の掃除や片付けをほとんどせず、自宅はいわゆる「ゴミ屋敷」のような状態であったこと
つまり夫側は、「自分の専門的な資格・能力による貢献が大きい一方、妻の家事への貢献はむしろ乏しかった」という、二段構えの主張で、妻の取り分を減らそうとしたことになります。専業主婦であった側にとっては、まさに直面しやすい主張のパターンといえます。
裁判所の判断 「6対4」は認められなかった
裁判所は、まず一般論として、夫婦共有財産は、夫婦の有形・無形の経済的協力関係によって形成されたものであり、これに対する双方の寄与度は、特段の事情がない限り、同程度とみるのが相当であるとしました。
そのうえで、本件の事情を個別に検討し、次の点を指摘しています。
- 相手方が税理士資格を取得したのは、婚姻してから13年後であり、婚姻当初から高額な収入を得ていたわけではないこと
- 申立人は専業主婦として家事や育児を担ってきたこと
- 婚姻当初から自宅が散らかった状態であったとまでは認められないこと
これらを踏まえ、裁判所は、婚姻期間全体を通してみれば、寄与度は同程度(5割ずつ)と認めるのが相当であると判断しました。夫側が主張した「6対4」という格差は、認められませんでした。妻としては、専業主婦であったことを理由に取り分を減らされることなく、原則どおりの2分の1を確保できたことになります。
※上記は審判の要旨をまとめたものであり、決定文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。
ここがポイント
「相手が資格を取って高収入になったから」「専業主婦だったから」というだけで、当然に取り分が減らされるわけではありません。この審判例では、①資格取得が婚姻期間の一部(後半)にとどまり、婚姻当初から高収入だったわけではないこと、②妻側の家事従事の実態が否定されなかったことが、2分の1を維持する決め手になっています。
実務上の意味・ここがポイント
配偶者から「自分の資格・能力で稼いだのだから取り分は多いはずだ」と主張されたとき、それだけで諦める必要はありません。この審判例から分かるのは、資格や能力による寄与度の格差が認められるのは、婚姻期間全体を通じて見たときに、その資格・能力が財産形成に一貫して大きく寄与したといえる場合に限られる傾向がある、ということです。婚姻期間の一部でしか高収入を得ていない場合、その格差の主張は薄まりやすいといえます。
また、「専業主婦なのに家事を十分に行っていなかった」という主張についても、相手からの単なる指摘だけでは足りず、それを裏付ける具体的な事情が必要になります。本件でも、自宅が婚姻当初から荒れていたとまでは認められなかった点が、妻側の寄与度を下げる方向には働きませんでした。逆にいえば、家事や育児にどう関わってきたかを、具体的に振り返り、整理しておくことが、自分の取り分を守るうえで役立つということでもあります。
ただし、これはあくまで個別の事案における判断です。資格取得の時期、婚姻期間の長さ、収入の推移、家事や育児の実際の分担状況などによって、結論は変わり得ます。「専業主婦だから必ず半分は確保できる」という理解も、逆に「資格があれば必ず多く取られてしまう」という理解も、どちらも一律には当てはまりません。それぞれの具体的な事情に即して検討する必要があります。
よくある質問
Q 私は専業主婦です。夫が資格を取って高収入になった場合、財産分与の取り分は減ってしまいますか。
A 必ず減るわけではありません。資格取得の時期や、それによって収入が伸びた期間が婚姻期間全体に占める割合などによって判断が変わります。婚姻の早い段階から一貫して高収入を得ていた場合と、婚姻期間の後半にようやく資格を取得した場合とでは、評価が異なる可能性があります。
Q 『専業主婦なのに家事をしていなかった』と言われています。それだけで取り分が減らされますか。
A 単に「専業主婦だったのに家事をしていなかった」という指摘だけで、当然に寄与度が下げられるわけではありません。この審判例のように、相手の指摘が具体的に裏付けられなければ、寄与度を下げる事情としては認められにくい傾向があります。
Q 2分の1ルールは、専業主婦の私でも当然に守られますか。
A 原則的な考え方ではありますが、絶対的なものではありません。もっとも、2分の1ルールを修正するだけの「特段の事情」が相手方の側で示されなければ、裁判所はこれを認めません。相手からどのような主張がされているかを整理し、それに対する反論を具体的に組み立てることが大切です。
「資格や収入を理由に取り分を減らされるのでは」とご不安な方へ
配偶者の資格取得の時期や収入の推移、これまでのご自身の家事・育児への関わり方を伺ったうえで、2分の1の取り分を守るためにどのような主張ができるか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

