贈与税の配偶者控除で自宅を渡したら、財産分与から外れる?――大阪高裁の判断

贈与税の配偶者控除で自宅を渡したら、財産分与から外れる?――離婚届と家の模型、木槌のイメージ図 財産分与

婚姻期間が20年を超えた夫婦には、自宅を贈与しても贈与税がかからない特例(贈与税の配偶者控除)があります。この制度を使って自宅を配偶者に渡した場合、その家は「もらった側だけのもの」になるのでしょうか。大阪高等裁判所平成23年2月14日決定は、この問いに一つの答えを示しています。

事案の概要

この事案の夫婦は、婚姻期間が20年を超えていました。夫婦が住んでいた不動産(土地・建物)には、もともと夫婦で形成した共有部分に加えて、夫の親族が持っていた持分も含まれていました。

婚姻期間が20年を超えると、居住用不動産を配偶者に贈与しても、一定額まで贈与税がかからない「配偶者控除」の特例が使えます。この事案では、この特例を利用して、夫の親族が持っていた部分も含め、不動産の持分全体が、夫から妻(以下「抗告人」とします)へと贈与されました。

ところが、この贈与が行われた背景には、妻が夫の不貞行為を疑っていたという事情がありました。婚姻関係が続いている中で、夫等の提案により、妻の不満を抑える目的で、この贈与が行われたとされています。その後、婚姻関係が破綻して離婚に至り、この不動産が財産分与の対象になるかどうかが争われました。

何が争点だったか

財産分与では、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産(共有財産)は対象になりますが(民法768条)、夫婦の一方が単独で持つ「特有財産」(民法762条1項)は、原則として対象外です。今回の不動産は、贈与によって妻名義になっていましたが、それが「妻だけの特有財産」といえるのか、それとも「実質的には夫婦の共有財産のまま」なのかが問題になりました。

贈与税がかからないようにするための、単に税金対策として名義だけを移したのであれば、実質的な財産関係まで変わったとはいえないので、妻だけの特有財産にならず、財産分与の対象財産になるという理屈です。

裁判所の判断

裁判所は、この贈与について、単なる節税目的のものではないと判断しました。妻が夫の不貞行為を疑っていた状況の中で、夫等の提案により、妻の不満を抑える目的で行われたものであるという経緯を重視したのです。

そのうえで裁判所は、この贈与は、婚姻関係が継続している中で行われたものではあるものの、不動産の帰属を確定的に決めるという、清算的な意味合いを持つものであったと評価しました。そして、そのような当事者の意思は尊重されるべきであるとして、この贈与によって、夫の親族が持っていた部分も含め、不動産の全部が、妻の特有財産になったと認めました。

つまり、この不動産は最終的に妻の「特有財産」であると認定されたことにより、財産分与の対象財産からは除外されるという結論になりました。夫側は、離婚に際して、この不動産について財産分与の対象に含めることができなくなったことになります。

結論 特有財産=財産分与の対象外

この事案の結論を一言でいえば、「贈与によってこの不動産は妻の特有財産となった → 特有財産は財産分与の対象にならない(民法762条1項)→ したがって夫はこの不動産について財産分与を請求できない」という流れです。贈与税の配偶者控除を使った贈与が、単なる節税策にとどまらず、財産の帰属を確定させる法的な効果まで持つと判断された点が、この決定のポイントです。

この審判例が意味すること

この審判例からは、贈与税の配偶者控除を使った不動産の贈与が、離婚時にどう扱われるかは、贈与の「名目」だけでなく、その「実質的な目的や経緯」によって左右されることが分かります。

夫婦関係にあった具体的な事情(今回でいえば、不貞行為の疑いや、それをめぐる家族間のやり取り)が、財産の帰属を判断するうえで重要な意味を持つことがあるのです。逆にいえば、贈与を受けた側からすれば、本件審判例のように贈与に至った経緯を具体的に主張・立証できるかどうかが、その財産を財産分与の対象から外し、守れるかどうかの分かれ目になり得るということでもあります。

よくある質問

Q 自宅を配偶者控除の特例で贈与すれば、それだけで財産分与から外れますか。

A 贈与したという事実だけで当然に外れるわけではありません。贈与に至った経緯や目的が、財産の帰属を確定的に決める意味を持つものであったかどうかが判断のポイントになります。

Q 反対に、贈与を受けた側として、この財産を守りたい場合はどうすればよいですか。

A 贈与がどのような経緯・目的で行われたのかを裏付ける事情(当時のやり取りや状況など)を整理しておくことが重要です。単なる税金対策ではなく、実質的な財産の帰属を決める趣旨であったことを示せるかどうかが鍵になります。

Q 内縁関係でも、この配偶者控除の特例は使えますか。

A 使えません。この特例は法律上の婚姻期間が20年を超えていることが要件であり、内縁関係には適用されません。

贈与された自宅の扱いにご不安がある方へ

贈与に至った経緯や、その後の婚姻関係の状況を伺ったうえで、財産分与においてどのように扱われそうか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)