面会交流の審判が出ても、同居親が非協力的な姿勢を崩さず、実際には一度も実施されない――そうした事態に、裁判所はどう向き合うのでしょうか。福岡家庭裁判所は、同居親の抵抗が強固なケースについて、単に「面会交流を実施させる」という抽象的な内容にとどまらず、引渡しの日時・場所まで具体的に特定する審判をしました。
事案の概要
同居親である母(相手方)と別居親である父(申立人)との間には、9歳になる子がいました。前件の審判により、年3回(3月・7月・12月)、各2時間の面会交流を実施することがすでに命じられていました。ところが母は、この前件審判を一度も履行しませんでした。
今回の審判手続でも、母は調停には出席せず、審判の期日にも欠席しました。その理由として母は、父と同じ場所にいると気持ちが動揺してしまい体調に影響が出るため出席できない、自分の気持ちは前件審判の時から変わっていない、といった趣旨の主張をしていました。
こうした状況を受けて父は、前件審判で定められた面会交流を、今度こそ確実に実施させてほしいとして、再度の審判を申し立てました。福岡家庭裁判所は、令和2年1月10日、この申立てについて判断を示しました。
争点
主な争点は、①前件審判で定められた面会交流の頻度・時間そのものを変更する必要があるか、②同居親が履行に応じない場合に、面会交流を確実に実施させるためにどのような手当てが必要か、の2点でした。
裁判所の判断
福岡家裁は、まず①について、父自身、前件審判の頻度や時間の変更までは求めておらず、間接的な交流の方法についても特段の変更を求めていないことなどから、前件審判で定められた内容(年3回・各2時間、間接交流の方法)自体を変更する必要はないと判断しました。
一方で②については、母が父との面会交流に応じない姿勢が強固であり、面会交流の進め方について父と協議すること自体も拒んでいることを重視しました。そのうえで、このような状況で面会交流を確実に実施させるためには、監護親である母が具体的に何をすべきかを、審判の中で特定しておく必要があるとしました。
さらに裁判所は、前件審判後、父と子との面会交流が一度も実施されていないことから、母が子に対して「父が実の父親であること」自体を伝えていない可能性にも言及しました。仮にそうだとしても、母は円滑な面会交流の実施に向けて、定められた実施時期までに、子の心情に配慮しながら、父が実の父親であることを子に伝えておく必要があるとしています。
こうした判断を踏まえ、審判では、面会交流の頻度・時間(年3回、各第4土曜日の午前11時から午後1時までの2時間)に加え、引渡しの場所(特定の場所)や引渡しの方法(面会交流開始時に母から父へ、終了時に父から母へ、同じ場所で引き渡す)まで、具体的に定められました。
※上記は審判の要旨をまとめたものであり、審判文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。
実務上のポイント
この事例のポイントは、面会交流の「頻度」や「時間」自体が争われたわけではなく、それを確実に履行させるための「給付内容の特定」が主戦場になった点にあります。
同居親が面会交流に非協力的で、協議に応じる姿勢もみせない場合、抽象的に「面会交流をさせよ」と定めるだけでは、実効性が確保できません。本件のように、いつ・どこで・どのように子を引き渡すのかという具体的な手続まで審判で特定しておくことで、初めて履行を確保しやすくなります。
ここでいう「間接強制」とは、審判や調停条項で定められた義務を相手が任意に履行しない場合に、家庭裁判所が「履行しない場合は1回につき○万円を支払え」といった形で金銭の支払いを命じ、心理的なプレッシャーによって履行を促す手続です。面会交流の実効性確保には、家庭裁判所による履行勧告という方法もありますが、法的な強制力はなく、強制執行の場面では、一定の要件を満たす場合に、この間接強制が重要な手段となります。
もっとも、間接強制を申し立てるには、審判の内容があらかじめ具体的に特定されている必要があります。この点について、最高裁平成25年3月28日決定は、間接強制を認めるためには、面会交流の日時(頻度)・各回の時間・子の引渡しの方法など、監護親がすべき給付の内容が特定されている必要があるとしています。抽象的に「面会交流をさせよ」と定めるだけの審判では、後に不履行があっても間接強制の申立てはできません。
もっとも実務上、最初の審判からここまで踏み込んだ特定がされることは多くありません。よほど、審判で定めたとおりの面会交流が実現しないことが強く見込まれるといった事情がない限り、1回目の審判では頻度・時間程度の大枠を定めるにとどまり、引渡しの場所・方法まで特定した、間接強制になじむ内容にはなりにくいのが実情です。本件でも、前件審判では直接の面会交流について年3回・各2時間と定められていましたが、子の引渡しの日時・場所・方法までは具体的に特定されていませんでした。前件審判が履行されなかったという実績を踏まえて改めて審判を申し立てる、いわば「2回目の審判」を経て初めて、間接強制を見据えた具体的な給付内容が定められたことになります。
また、面会交流が長期間実施されていない事案では、子どもが別居親の存在自体を十分に認識していない可能性も踏まえ、同居親に対して、子への説明という形での協力を求める判断がされている点も実務上参考になります。
もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。同居親の非協力の程度や、面会交流が実施されなかった経緯、子の年齢や心情によって、裁判所がどこまで具体的な給付内容を定めるかは事案ごとに異なり、常に同じ結論になるとは限りません。
よくある質問
Q1. 面会交流の審判が出たのに、相手が守ってくれません。どうすればいいですか?
A. 本件のように、改めて面会交流の審判を申し立て、間接強制が可能となる程度に具体的な内容を定めてもらうことが考えられます。内容が具体的であるほど、後の履行確保(履行勧告や間接強制)にもつながりやすくなります。
Q2. 相手が「体調が悪いから」と面会交流の話し合いに応じません。それでも審判は進みますか?
A. 進みます。本件でも、同居親が体調不良を理由に調停や審判期日を欠席しましたが、裁判所はそれによって手続を止めることなく、従前の実績や当事者双方の主張内容を踏まえて判断をしています。
面会交流にご不安な方へ
審判が出ても実際には守られない、話し合いにすら応じてもらえない――面会交流の場面では、こうした「決まったはずなのに進まない」というご相談が少なくありません。どこまで具体的に定めれば実効性を確保できるか、履行されない場合にどのような手段が取れるかは、事案ごとの見極めが必要です。面会交流の実施でお困りの方は、早めに弁護士へご相談されることをお勧めします。
※本コラムは、公開されている裁判例集の情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案における結論を保証するものではなく、法的助言に代わるものでもありません。具体的な事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。

