住宅ローンが残っていても財産分与で損しない?――事業用・収益物件のオーバーローン

住宅ローンが残っていても財産分与で損しない?事業用・収益物件のオーバーローン 財産分与

以前、住宅ローンの残高が自宅の評価額を上回っている場合、財産分与では原則としてそのマイナス分をほかのプラスの財産と合算(通算)して計算する、という考え方をご紹介しました。もっとも、この「通算」には例外があります。自宅が単なる住まいにとどまらず、事業の拠点として使われていたり、収益を生む物件だったりする場合には、話が違ってきます。大阪高等裁判所平成17年5月31日決定を例に、この例外的な扱いを紹介します。

原則のおさらい:プラスとマイナスを合算する「通算」

財産分与は、預貯金や不動産などのプラスの財産と、住宅ローンなどのマイナスの財産をすべて合算し、差し引き後に残ったプラスの部分だけを分ける、という「通算」の考え方が基本です。この考え方に立つと、住宅ローンが自宅の評価額を大きく上回っている場合、その分だけ夫婦の財産全体が目減りし、場合によっては分けるべきプラスの財産自体がなくなりマイナスの財産しか残らないということもあります。

例外①:事業の拠点としての利用価値が大きい場合

自宅が、単なる住まいとしてだけでなく、仕事の拠点としても使われているような場合には、話が変わってきます。名義上の評価額だけを見れば住宅ローンが上回っていても、実際にその建物を使い続けることで得られる利益(そこで事業を営み続けられる利益)まで含めて考えれば、単純に「マイナスの財産」とは言い切れない場合があるという考え方です。このような場合には、住宅ローンをほかのプラスの財産と機械的に合算しない扱いがされることがあります。

例外②:収益を生む物件の場合

また、賃貸物件のように収益を生み出す性質の不動産についても、同じような発想が当てはまることがあります。オーバーローンになっている部分は、その物件が将来生み出す家賃収入などから回収していくべきものであって、離婚のタイミングでほかの財産とまとめて清算してしまうのは、収益不動産を取得しない一方に負債だけ負担させて、その収益は分配されないという点で公平ではないという考え方です。

大阪高等裁判所平成17年5月31日決定

実際にこうした考え方が現れた例として、大阪高等裁判所平成17年5月31日決定があります。

この事案では、元夫婦の間で、住まいをめぐって双方が取得を希望していました。土地は夫名義、建物は妻名義となっていましたが、いずれにせよこの不動産には、評価額2300万円を大きく上回る、合計4425万円もの債務(金融機関からの借入れと、妻の父親からの借入れ)が残っていました。金融機関からの借入れには、この不動産に抵当権も設定されていました。

この不動産は、夫が住まいとして使うだけでなく、自分の建築事務所としても使用しており、離婚後もその状態を続ける現実的な利益がありました。

高等裁判所は、この不動産を夫に取得させることとしました。そのうえで、不動産の取得に伴う債務についても、対外的にも夫婦間の内部関係においても、すべて夫だけが負担すべきものと判断しました。夫が今後もこの不動産を単独で使用し、住まいとしても仕事の拠点としても、その利益を独り占めすることになる以上、それに見合う債務も夫が一人で背負うのでなければ釣り合いが取れない、という考え方です。妻については、この不動産にまつわる債務について、夫婦間の内部関係では一切の負担を免れるものとされました。

つまりこの事案では、オーバーローンの不動産とその債務は夫に丸ごと帰属させる形で切り離し、それ以外の財産だけを分ける、という処理がされたことになります。

※上記は決定の要旨をまとめたものであり、決定文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。

令和6年の東京高裁判決ともつながる発想

以前ご紹介した東京高等裁判所令和6年8月21日判決は、住宅ローン付きの自宅がある場合、原則としてはほかの財産と通算して計算すべきだとしつつ、自宅に住み続ける側が最終的に負担のない不動産を手に入れる一方で、住み続けない側の取り分がほとんど残らないような著しい不公平がある場合には、例外的に異なる扱いをすることにも合理性がある、という考え方を示していました。

今回の大阪高裁の事案は、これと近い発想を、住宅ローンをそもそも通算の対象から切り離すという形で実現した例といえます。理由づけの筋道こそ異なりますが、「不動産に住み続けてその利益を得る側だけが、対価となる債務も背負うべきだ」という考え方の根っこは、共通しているように思えます。

実務上の意味・ここがポイント

整理すると、次のとおりです。

①オーバーローンの不動産があっても、それが事業の拠点として使われていて実際の利用価値が大きい場合や、収益を生む物件である場合には、その債務をほかの財産と機械的に合算しない扱いがされることがあります。②このような扱いがされると、オーバーローンを理由に取り分がゼロになってしまう事態を避けられる可能性があります。③もっとも、これらはあくまで個別の事案における判断であり、単に「事業でも使っている」というだけで当然にこの扱いになるわけではありません。不動産をどのように利用してきたか、離婚後も利用を続ける実質的な利益がどの程度あるかといった具体的な事情が重要になります。

よくある質問

Q 自宅を自営業の事務所としても使っている場合、住宅ローンが残っていても財産分与で不利にならないことがありますか。

A はい。事業の拠点として実際に利用を続ける現実的な利益が認められる場合には、その住宅ローンをほかの財産と機械的に合算しない扱いがされることがあります。大阪高等裁判所平成17年5月31日決定は、そのような考え方を示した一例です。

Q 賃貸に出している収益物件のローンも、同じように考えてもらえますか。

A 収益を生む物件については、オーバーローン部分をその収益から回収すべきだという考え方から、ほかの財産と合算しない扱いがされることがあります。

事業用不動産や収益物件が絡む財産分与にご不安がある方へ

不動産の利用状況や住宅ローンの残高、今後の利用の見通しなどを伺ったうえで、財産分与でどのように扱われそうか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)