「不貞相手は一人だけではなかった」というケースは、実務上珍しくありません。このような場合、一人の不貞相手にすべての責任を負わせられるのか、それとも他の相手の存在によって金額が変わってくるのか、疑問に思う方も多いはずです。東京地方裁判所平成23年12月20日判決は、この点を考えるうえで参考になる事案です。
事案の概要
この事案の原告(夫)は、元妻Aと被告(不貞相手)との不貞行為によって、Aとの離婚を余儀なくされたと主張し、被告に対して慰謝料の支払いを求めました。もっとも、Aには被告以外にも交際していた男性がおり、原告は既に、その別の男性との間で、和解金80万円の支払いを受ける内容の裁判上の和解を成立させていました。
争点
本件では、被告による不貞行為の存在自体に争いはなく、①原告とAの離婚の原因が、専ら被告との不貞行為にあるといえるか、②既に他の不貞相手から賠償を受けていることが、被告に対する請求にどう影響するか、③被告が訴訟の中で行った主張の当否、④これらを踏まえた慰謝料額が争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は、次のような事情を認定しました。
- 原告がAとの離婚を決意した要因の一つとして、Aが被告以外の男性とも性的関係を持っていたことが挙げられること
- Aが被告との関係に積極的であった背景には、原告とA自身の夫婦関係にも問題(性生活の面での不和)があったこと
- 原告は、Aと関係を持った別の男性との間で、既に80万円の和解金の支払いを受ける内容の裁判上の和解を成立させていたこと
- 被告が、訴訟の中で原告を根拠なく中傷するような主張をしていたこと
これらの事情を総合的に考慮し、裁判所は、被告が原告に支払うべき慰謝料額を120万円と判断しました。
※上記は判決の要旨をまとめたものであり、判決文そのものではありません。実際の事案の詳細や表現とは異なる場合があります。
実務上の意味・ここがポイント
この判決から分かるのは、配偶者に複数の不貞相手がいた場合、一人の不貞相手だけが婚姻関係破綻のすべての責任を負うわけではないということです。裁判所は、他の不貞相手の存在や、その相手との間で既に成立している賠償・和解の状況も踏まえたうえで、目の前の被告が負うべき金額を個別に評価しています。
また、この判決では、婚姻関係そのものに元々問題(性生活の不和)があったことも認定されていますが、これは被告の責任を否定する事情としては扱われていません。夫婦関係の状態は、あくまで金額を評価する一事情にとどまり、それ自体で不貞相手の免責にはつながらないことが分かります。
もう一点注目したいのが、被告が訴訟の中で原告を根拠なく中傷するような主張をしたことが、増額事由として扱われている点です。これは、以前ご紹介した「美人局」の主張が増額事由とされた事案とも共通する視点であり、不貞相手側が訴訟で安易に攻撃的な主張を展開することには、相応のリスクが伴うことを改めて示しています。
もっとも、これはあくまで個別の事案における判断です。他の不貞相手の存在や、既に得られた賠償の内容、婚姻関係の実情などによって、評価は変わり得ます。同じように複数の不貞相手がいる事案であっても、必ずこの判決と同じ結論になるとは限りません。
よくある質問
Q 配偶者に複数の不貞相手がいた場合、それぞれに慰謝料を請求できますか。
A それぞれの不貞相手は、各自の不貞行為について独立して責任を負う関係にあるため、各相手に請求すること自体は可能です。もっとも、他の相手から既に賠償や和解金を得ている場合、その事情が個々の請求における金額評価に影響することがあります。
Q 既に一人の不貞相手と和解が成立している場合、他の不貞相手への請求額は減りますか。
A 本件のように、既に得た賠償の状況が総合考慮の一事情として扱われることがあります。もっとも、当然に同額が差し引かれるわけではなく、事案ごとの事情を踏まえて個別に評価されます。
Q 自分たち夫婦にも元々問題があった場合、不貞相手への請求は難しくなりますか。
A 婚姻関係に元から問題があったことは、請求そのものを妨げる事情にはなりません。もっとも、慰謝料額を評価する一事情として考慮されることがあります。
複数の不貞相手がいる場合の請求にお悩みの方へ
配偶者に複数の交際相手がいた場合、誰にどのように請求していくかの整理は容易ではありません。これまでの経緯や、既に得られている賠償・和解の状況を伺ったうえで、請求の進め方や金額の見通しを整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。判例は個別の事案に対する判断であり、同じ結論になるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

