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犬3頭、月1万5900円―― 実際にあったペット飼育費の分担審判
「ペットは財産分与の対象にならない」とよく言われますが、実際の裁判所は、もう一歩踏み込んだ判断をしたことがあります。福岡家庭裁判所久留米支部で令和2年に出された審判は、離婚した夫婦の犬3頭の扱いについて、かなり具体的な金額まで決めました。何が争われ、どう判断されたのか、そして、ペットをめぐる話し合いをどう整理すればよいのか、かみ砕いて紹介します。
どんな夫婦のケースだったか
離婚した元夫婦には、ゴールデンレトリバー、雑種、ラブラドールレトリバーの3頭の犬がいました。別居後、一方(審判上は「相手方」)はそれまで暮らしていた家に残り、3頭の世話を続けます。もう一方(「申立人」)は別の場所に移りましたが、相手方が住み続けている家の家賃や水道光熱費は、別居後も申立人が支払い続けていました。
つまり、犬の世話をしているのは相手方なのに、その犬たちが暮らす家の費用は申立人が負担している、というねじれた状態が続いていたのです。離婚に伴う財産分与の手続の中で、この犬たちの扱いと費用負担が争点になりました。
裁判所の考え方:「財産価値はないが、夫婦の財産ではある」
裁判所はまず、犬について「市場で売り買いされるような、はっきりした財産的価値があるとまでは言えない」と述べました。ペットショップで買った犬であっても、家族として長く暮らした後では、いわゆる「資産」としての値段はつけにくい、というのが基本的な考え方です。
しかし、そのうえで裁判所は「広い意味では、夫婦が共同で持っている財産にあたる」とも述べています。財産的価値がはっきりしないからといって、無視してよいものではない、という判断です。
ここがポイント
「ペットに値段がつかない=財産分与で扱われない」わけではありません。この審判例は、値段がつきにくいものでも、夫婦の共同財産として扱い、費用の分担を決めるという道があることを示しています。
ペットの問題は「誰が飼うか」と「誰が負担するか」に分けて考える
ペットをめぐる話し合いを整理するときは、次の2つの問題を、いったん分けて考えると見通しがよくなります。
① 誰が所有するのか(帰属)
これまでの飼育状況や、離婚後どちらが実際に世話をしていくのかなど、諸般の事情を踏まえて判断されます。帰属の形としては、基本的に次の2通りが考えられます。
- 単独所有:一方がペットを引き取り、他方は所有権を持たない
- 共有:夫婦双方が持分を持ち、それぞれが共有者として権利を持つ
ここで注意したいのは、「共有」とされたからといって、必ずしも相手方のもとで一緒にペットを飼育することを意味するわけではない、という点です。共有はあくまで法律上の権利関係の話であり、実際の飼育は一方だけが担う、という形は十分にあり得ます。
② 飼育費用を誰が負担するのか
帰属の問題とは別に、実際にかかる飼育費用(治療費を含む)を、誰がどの程度負担するのかという問題があります。
- 単独所有・自己負担:引き取った側が、飼育費用を基本的にすべて負担する
- 共有・持分等に応じた負担:共有持分等を踏まえ、相手方にも一定の経済的負担を求める
本件審判例に当てはめると
本件では、実際の飼育は相手方が主として担うことを前提としつつ、飼育に要する費用については、申立人にもその収入状況等に応じて負担させるという考え方から、共有という法律関係が採用されたと考えられます。実際、犬の持分割合(申立人3分の2、相手方3分の1)も、飼育費用の負担割合と対応させる形で、双方の収入状況等を踏まえて決められています。
一方で、申立人にも共有持分が認められている以上、申立人は共有者として犬について一定の権利を有することになります。そのため、たとえば犬との面会や散歩など、犬に関わること自体を、相手方が当然に排除できるとは限らない、という点にも注意が必要です。
実際にいくら支払うことになったのか
審判の主文(結論部分)では、具体的な金額まで示されました。整理すると、次のような内容です。
- 犬3頭は、申立人の持分3分の2、相手方の持分3分の1の共有とする
- 申立人は相手方に対し、犬の飼育が終わるまで、毎月末日に1万5000円を支払う(家賃のうち、犬の飼育に必要な部分に相当する金額)
- 申立人は相手方に対し、犬の飼育が終わるまで、毎月末日に1頭につき900円、3頭で2700円を支払う(餌代に相当する金額)
合計すると、申立人は毎月1万7700円を、相手方が犬の飼育を続ける限り支払い続けることになります。離婚が成立して別々に暮らすようになっても、犬がいる限り、金銭的なつながりが継続する形になったわけです。
離婚後、何を優先するか
この事案が示すとおり、ペットの帰属をどう決めるかは、離婚後に相手方との関係をどこまで残したいかという、ご自身の希望と深く関わってきます。ポイントは、次のどちらを優先したいかを、はっきりさせておくことです。
- 「相手方には一切関わってほしくない」ことを優先するのか
- 「相手方にも飼育費用を負担してもらいたい」ことを優先するのか
相手方にペットとの関わりを一切持ってほしくないのであれば、共有にはせず、自分が単独でペットを引き取り、その後の飼育費用も基本的に自分で負担することを前提に、単独所有を求めていくことになります。
一方で、相手方がペットに関わることを一定程度受け入れられるのであれば、共有としたうえで、持分割合等に応じた費用負担を求めるという考え方もあります。「単独所有として関係を切る」ことと、「共有として経済的な負担を分かち合う」ことには、それぞれメリット・デメリットがあります。ご自身が何を優先したいかを踏まえて、帰属の形を検討することが大切です。
実務のポイント
ペットの話し合いでは、「引き取るか、引き取らないか」の二者択一だけでなく、①帰属(単独か共有か)と②費用負担を分けて考えることで、選択肢が広がります。相手方との今後の関わり方をどこまで残すかを軸に整理するとよいでしょう。
この審判例から読み取れること
- ペットは「値段がつかないから無関係」ではなく、夫婦の共同財産として扱われることがある
- 「共有」とされても、実際に飼育するのは一方だけという形は十分にあり得る
- 実際に世話をする側と、しない側とで、費用を分担させるという解決の仕方がある
- 分担の割合は、両者の経済力の差など、実情に応じて調整され得る
- 共有とする場合、相手方にもペットに関わる一定の権利が残ることに注意が必要
よくある質問
Q うちも犬を飼っています。同じように費用を分担してもらえますか。
A 必ずこの審判例と同じ結論になるとは限りません。この事案は個別の事情(別居後の家賃負担の経緯、双方の経済状況など)を踏まえて判断されたものです。ご自身の状況を整理したうえで、どのような主張ができそうか確認することをおすすめします。
Q 相手とは今後、一切関わりたくありません。それでも共有にされてしまいますか。
A 必ず共有にしなければならないわけではありません。単独所有を前提に、飼育費用も自分で負担することを主張していくことで、相手方との関わりを断つ形を目指すこともできます。ご自身の希望を早い段階で明確にしておくことが大切です。
Q 犬を引き取る代わりに、何かお金をもらう交渉はできますか。
A この審判例のように、飼育を続ける側が、飼育をしない側から一定額を受け取るという取り決めは考えられます。ただしその場合、相手方にも共有者としての一定の関わりが残る可能性がある点は踏まえておく必要があります。
ペットのことでお悩みの方へ
ペットの引き取りや費用の分担は、財産の話し合いとはまた違った難しさがあります。相手方との今後の関わり方について何を優先したいかを伺ったうえで、無理のない解決の形をご提案いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

