「財産分与を多めにもらう代わりに、年金分割は請求しないと約束しました。この合意があれば、もう年金分割はできないですよね」というご相談をいただくことがあります。実は、この点については、法律上少し込み入った事情があります。今回は、年金分割を「しない」という約束の効力についてご紹介します。
年金分割の請求権は、そもそも「放棄」できる権利ではない
年金分割の請求権は、私人間の財産に関する権利(私権)ではなく、国に対して年金の記録を分けてもらうことを求める、公法上の権利だとされています。そのため、年金分割の請求権は、当事者間の合意だけで消滅させることはできないと解されています。
実務では「申立てをしない」という約束が使われてきた
もっとも、年金分割のうち合意分割については、話し合いで割合が決まらなければ、家庭裁判所に按分割合を定めてほしいと申し立てることができる、という仕組みになっています。そこで実務上は、「この申立てをしない」という約束(不起訴の合意)をすることで、実質的に年金分割を請求しないのと同じ結果を目指すという方法がとられることがありました。按分割合について合意がなく、裁判所への申立ても行わなければ、割合が定まらず、年金分割は実現しないためです。
このような不起訴の合意は、従来、基本的に有効なものとして扱われてきました。財産分与で相手に譲歩してもらう代わりに、年金分割の申立てをしないと約束するという形の取り決めも実務上はあります。
3号分割は、そもそも合意があっても請求できる
なお、2008年4月1日以後の婚姻期間中に第3号被保険者であった期間について2分の1の分割が認められる3号分割は、相手との話し合いや家庭裁判所への申立てを前提とする制度ではなく、第3号被保険者であった方からの請求によって分割されるため、たとえ「年金分割を請求しない」という合意をしていたとしても、その合意にかかわらず請求できるとされています。
実務上の意味・ここがポイント
①年金分割の請求権は公法上の権利であり、私権のような意味での放棄はできません。
②実務では「按分割合を定める申立てをしない」という合意によって、実質的に年金分割を回避する方法がとられてきました。
③3号分割については、請求しないという合意があっても、その合意にかかわらず請求できます。
よくある質問
Q1 離婚協議書に「年金分割はしない」と書いてもらいましたが、意味がありませんか?
A 実務上有効とするのが原則ですが、合意に至った経緯などによっては、無効と判断される可能性もあります。合意書の内容だけで安心せず、具体的な事情を踏まえて確認することをおすすめします。
Q2 財産分与を多めにもらう代わりに年金分割を諦めるという取り決めはできませんか?
A このような取り決め自体、原則として有効ですが、後になって合意の有効性が争われる可能性がある点には注意が必要です。取り決めの経緯や内容を明確にしておくことが重要になります。
Q3 相手の3号分割の請求を止めることはできますか?
A 3号分割は、請求しないという合意があっても請求できる制度ですので、合意によってこれを止めることは基本的にできません。
年金分割の取り決めについてご不安がある方へ
年金分割を請求しないという約束について、すでに交わした合意の有効性が気になる方も、これから取り決めをされる方も、中目黒さくら法律事務所までご相談ください。
※本コラムは、年金分割制度についての一般的なご紹介を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご相談内容によって結論が異なる場合がありますので、具体的なケースについては弁護士にご相談ください。

