同居したまま夫婦関係が破綻……財産分与はいつの時点の財産をもらえるの?(家庭内別居)

家庭内別居の場合の財産分与の基準時 財産分与

「もう夫婦としての気持ちはとっくに冷めているけれど、経済的な事情もあって同じ家に住み続けている」——いわゆる家庭内別居の状態にある方から、こうしたご相談を受けることがあります。この場合、実際に別居していない以上、財産分与の基準時はどう考えればよいのでしょうか。ここでは、家庭内別居のケースにおける基準時の考え方を紹介します。

原則:家庭内別居は、それだけでは基準時にならないことが多い

財産分与の対象財産を確定する基準時は、原則として、夫婦の経済的な協力関係が終了した時点です。物理的に別居していれば、この時点は比較的明確に判断できますが、同じ住居に住み続けている家庭内別居の場合は事情が異なります。同じ屋根の下で暮らし、家賃や水道光熱費なども共通の家計から負担している状態がほとんどであるため、夫婦関係が実質的に破綻していても、経済的な協力関係まで完全になくなったと評価できる場面は限られます。

そのため、家庭内別居が始まった日そのものではなく、離婚調停の申立日や離婚訴訟の提起日が基準時とされることが多いとされています。「気持ちはとっくに冷めていた」という主観的な事情だけでは、基準時を早めることは難しいのが実務の傾向です。

例外:3つの事情が揃えば、家庭内別居の開始日が基準時になることもある

もっとも、家庭内別居が始まった日を基準時と認めるかどうかは、次のような事情を手がかりに判断されることがあります。夫婦のどちらかが離婚の意思をはっきり示していたか、生活費を渡し合う関係が途絶えていたか、そして相手のために食事の支度や洗濯などの家事を行う関係がなくなっていたか、という点です。これらの事情が揃うことで、同じ家に住んでいても経済的な協力関係が実質的に失われたと評価できる場合には、家庭内別居が始まった時点を基準時とすることもあります。

実際に、夫婦間の諍いをきっかけに、一方が「今後は自分のために家事をしなくてよい」と伝え、以降は互いの給与のやり取りをやめる旨を宣言したという事案で、その宣言があった日を基準時と認めた裁判例もあります(東京家庭裁判所令和3年12月24日判決)。この事案では、離婚したいという意思がはっきり示されていたわけではありませんでした。それでも、その後は収入をそれぞれ独立して管理し、ほとんど会話もなく、家事も各自で行うようになっていたという生活実態が重視され、日用品の購入費用だけは折半していたという事情が一部残っていたにもかかわらず、夫婦としての協力関係は実質的に失われていたと判断されています。つまり、離婚したいという意思をはっきり口にしていたかどうかよりも、実際の生活実態がどうだったかが重視されるということです。

「同居しているから基準時は先延ばしになる」わけではない

ここで注意したいのは、同居を続けているからといって、当然に調停申立日まで基準時が先延ばしになるわけではないという点です。上記の裁判例が示すように、収入の管理方法や生活費のやり取り、家事の分担といった実態を丁寧に見ていけば、同居していても経済的な協力関係が実質的に失われたと評価できる場合があります。反対に、形の上で家計や家事を分けていても、実際には夫婦としての協力関係が色濃く残っているようなケースでは、家庭内別居の開始日を基準時とすることは難しくなります。

実務上の意味・ここがポイント

ここまでの内容を整理すると、伝えたいことはシンプルです。①同じ住居に住み続けている家庭内別居のケースでは、家庭内別居が始まった日そのものが基準時になるとは限らず、多くの場合、離婚調停の申立日等が基準時になります。②もっとも、離婚の意思表明があったか、生活費のやり取りが途絶えたか、家事の分担がなくなったかという事情を手がかりに、家庭内別居が始まった時点を基準時とすることもあります。③離婚したいという意思をはっきり口にしていなくても、収入の管理方法や日々の生活の実態から、協力関係が実質的に失われていたと認められることがあります。実際にどの時点で協力関係が失われたといえるかは、収入の管理方法や生活費のやり取り、家事の分担の実態を具体的に振り返って判断されます。

だからこそ、家庭内別居に踏み切る際には、いつから収入を別々に管理するようになったか、生活費のやり取りをいつ止めたか、家事の分担をいつからやめたかを、できるだけ具体的な日付とともに記録しておくことが重要です。口頭でのやり取りだけでなく、メールやLINEなど、日付が残る形でのやり取りを残しておくと、後になって基準時が争いになった際の手がかりになります。

よくある質問

Q もう何年も前から夫婦としての気持ちはありません。ただ、経済的な事情で同居を続けています。この場合、いつが基準時になりますか。

A 同居を続けている以上、気持ちが冷めていたというだけでは基準時を早めることは難しく、多くの場合、離婚調停の申立日等が基準時になります。ただし、収入の管理方法や生活費のやり取り、家事の分担が実質的になくなっていたといえる時点があれば、その時点を基準時とできる可能性があります。

Q 家庭内別居を始めてから、生活費や家事はそれぞれ別々にするようにしています。それでも基準時は調停申立日になってしまいますか。

A 必ずしもそうとは限りません。生活費のやり取りの停止や家事の分担の停止といった事情を具体的に示せれば、たとえ離婚したいという意思をはっきり口にしていなくても、家庭内別居を始めた時点が基準時と認められる可能性があります。実際に、明確な離婚の申出がない事案でも、収入管理や生活実態を重視して基準時を認めた裁判例があります。

Q 家庭内別居中も、日用品の購入費用だけは折半していました。それでも協力関係が終了したと認められますか。

A 一部の費用を折半していたという事情があっても、それだけで直ちに協力関係が続いていたと評価されるわけではありません。裁判例でも、日用品費の折半が一部残っていた事案で、収入管理や生活費のやり取りが実質的になくなっていたことを重視して、協力関係の終了が認められた例があります。

家庭内別居中の財産分与の基準時についてご不安がある方へ

家庭内別居に至った経緯や、収入の管理方法、生活費・家事の分担の実情などを伺ったうえで、どの時点が基準時になりそうか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。基準時の判断は、収入の管理方法や生活費・家事の分担の実態など、個別の事情によって異なり、必ずこのとおりになるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

執筆者:益子大悟(中目黒さくら法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属)