「単身赴任がきっかけで、いつの間にか夫婦関係が冷え切ってしまった。物理的には何年も別居しているのだから、単身赴任を始めた日を財産分与の基準時にしてほしい」——このように考える方は少なくありません。しかし、単身赴任による別居は、通常の別居とは扱いが異なります。ここでは、単身赴任や留学などを理由とする別居について、財産分与の基準時がいつになるのかを整理して紹介します。
原則:単身赴任・留学などの別居は、それだけでは基準時にならない
財産分与の対象財産を確定する基準時は、原則として、夫婦の経済的な協力関係が終了した時点、多くの場合は別居した日です。しかし、単身赴任や留学、療養、里帰り出産などを理由とする別居は、いずれも夫婦としての協力関係が続いていることを前提とした別居にすぎません。単身赴任先で生活していても、家計は従来どおり共有し、休みには自宅に帰るなど、夫婦としての実態が保たれていることが通常だからです。
そのため、こうした別居が始まった日をそのまま基準時とすることはできず、代わりに、離婚調停を申し立てた日等が基準時とされる例が多く見られます。「単身赴任してから何年経っているか」という物理的な別居期間の長さだけでは、基準時を決める理由にはならないという点に注意が必要です。
例外:協力関係が終わったと客観的に分かる出来事があれば、その日が基準時になる
もっとも、単身赴任や留学がきっかけで実際に夫婦関係が悪化した場合、調停や訴訟を待たずに、もっと早い時点を基準時とできることがあります。具体的には、内容証明郵便で離婚に向けた話合いを申し入れた日、当事者のどちらかが離婚を切り出した日、あるいは、そのやり取りの後に生活費の受け渡しや連絡が途絶えるなど、協力関係が実質的に終わったと客観的にわかる出来事があった日を基準時として扱うことが少なくありません。
実際に、単身赴任中に夫婦関係が悪化して離婚を申し入れた後、婚姻費用相当額の送金のみとなり、その後連絡も途絶えたという事情のもとで、離婚を申し入れた日が基準時として扱われた実務上の例もあります。逆にいえば、離婚を申し入れた後もしばらくの間、生活費のやり取りや連絡が続いていた場合には、その時点ではまだ協力関係が続いていたと評価され、基準時はさらに後ろにずれることになります。
単身赴任から帰国した場合はどうなるか
単身赴任を終えて帰国したものの、そのまま同居を再開せず、別々に暮らし始めたというケースもあります。せっかく日本に戻ってきたのに、あえて一緒に暮らす道を選ばなかった――この事実は、それ自体が夫婦としての関係を続ける意思がないことを、誰の目にもわかる形で示す出来事だと評価されることがあります。そのため、こうしたケースでは、帰国した日を基準時とする考え方がとられることがあります。なお、帰国後、別のところに居住していた事実を住民票等で立証することになります。また、財産分与の基準時の判断については客観性が求められますので、帰国後に夫婦として関係を続ける意思がないことをメール等で一方配偶者に伝えておくことをお勧めします。
実務上の意味・ここがポイント
ここまでの内容を整理すると、伝えたいことはシンプルです。①単身赴任・留学・療養・里帰り出産などを理由とする別居は、それ自体では財産分与の基準時になりません。②多くの場合、離婚調停の申立日等が基準時になります。③もっとも、離婚に向けた協議の申し入れや、その後の生活費のやり取り・連絡の途絶など、協力関係が実質的に終了したと客観的に評価できる事実があれば、その時点まで基準時を早められることがあります。
だからこそ、単身赴任や留学がきっかけで夫婦関係が悪化してきたと感じたら、口頭でのやり取りだけに頼らず、内容証明郵便やメールなど、日付が残る形で意思表示をしておくことが重要です。あわせて、生活費の送金状況や連絡の頻度についても、通帳や履歴などの形で記録しておくと、後になって基準時が争いになった際の有力な手がかりになります。
よくある質問
Q 単身赴任を始めてから5年以上経っています。その間ずっと不仲でした。単身赴任を始めた日を基準時にできませんか。
A 単身赴任のように協力関係の継続を前提とする別居は、それ自体では基準時になりにくいとされています。単身赴任を始めた日ではなく、離婚調停の申立日や、離婚に向けた協議を申し入れた日など、協力関係が終了したと客観的に評価できる事実があった時点が基準時になるのが基本的な考え方です。
Q 単身赴任中に、メールで離婚を切り出しました。この日が基準時になりますか。
A そのメールの後、算定表に基づく婚姻費用相当額の送金のみになり、連絡も途絶えたといった事情があれば、そのメールで離婚を切り出した日が基準時として扱われることがあります。もっとも、その後も生活費のやり取りや連絡が続いていた場合は、基準時がさらに後ろにずれる可能性があります。
Q 単身赴任を終えて帰国しましたが、同居はしていません。この場合、基準時はいつになりますか。
A 赴任先から帰国したにもかかわらず同居を再開しなかったという事実は、協力関係が終了したことを示す事情として評価されることがあり、帰国した日が基準時とされる考え方があります。
単身赴任・別居中の財産分与の基準時についてご不安がある方へ
単身赴任の開始時期や、その後の夫婦間のやり取り、生活費の送金状況などを伺ったうえで、どの時点が基準時になりそうか整理いたします。まずは状況をお聞かせください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。基準時の判断は、別居に至る経緯や夫婦間のやり取りの内容など、個別の事情によって異なり、必ずこのとおりになるとは限りません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

